第8章 少女漫画
任務の帰り、前から読んでいるシリーズ物の小説と、鈴に頼まれた少女漫画の最新刊を買いに本屋に寄った。
(どれだ?)
漫画のタイトルは何だったっけ。思い出そうと平積みの本の前で立っていると、聞き慣れた声がした。
「へぇ〜、恵って少女漫画とか読むんだ?」
視線だけを斜め後ろに動かすと、ニヤついた顔をした五条が立っていた。
「…鈴に頼まれたんですよ……」
「あ、そう。コレとかどんな内容?イケメン幼なじみと溺愛系義兄との学園ラブコメ。こじれた三角関係の行方はー、だって」
「頼まれた本、それです」
「マジ?今度鈴に貸してもらおうっと」
目的を果たした伏黒は、じゃあと五条に背を向けレジへ向かった。なのに彼は後からついてくる。
「本屋に用事があったんじゃないんですか?」
「いや、暇つぶし」
そういえば、五条が小説や漫画を読んでいるところなんて見たことがない。せいぜい新聞か報告書ぐらいだ。
「このまま、まっすぐ高専に帰るの?」
「当たり前です」
本屋を出て、スマホを開く。鈴に漫画を買ったから今から帰るとメッセージを送ると、すぐに既読がついてぴょこぴょこ跳ねるうさぎのスタンプが返ってきた。自然と唇がほころぶ。
「いつも仲良いね。けんかとかしないんだ?」
「人の心配より自分の心配したらどうですか?」
「今彼女いないもん。それに長続きしないんだよね。ほら、僕って来る者拒まず去る者追わずだから」
(…最低だな)
高専に昔からちょいちょい出入りしていたら、五条の噂話はいやでも耳にする。モテすぎるのも一因だろうが、そのポリシーも要因だろう。
「まあ、去る者追わずなら、五条先生と長続きする女性なんているわけないですよね」
「うわ、辛辣」
ワガママで傍若無人で、仕事も忙しい。イケメンで最強で金持ちというのを差し引いても、なかなか恋人なんて出来ないんじゃないだろうか。