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❁✿✾ 依 依 恋 恋 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第3章 依依恋恋 三話




アラーム独特の電子音が鳴る前に目覚めるのは、随分前からすっかり身についた凪の癖だ。緩慢に瞼を持ち上げた先へ映り込むのは、いつもと変わらぬマンションの真っ白な天井だ。ぱち、とひとつ瞬きをした後でスマホ端末へ手を伸ばし、時刻を確認する。まだ出社時刻まではそこそこ余裕がある為、ゆっくり朝食の支度も出来そうだ。

「………そういえば最近、全然【白靄(しろもや)さん】の夢、見てないなあ」

以前までは割りとひっきりなしに見ていた筈なのに、ここ一年くらいはまったくご無沙汰だ。遠距離恋愛中の恋人から、ぱったりと連絡が途絶えたような感覚を抱き、思わず苦笑する。まったく、たかが夢如きに大層な振り回されっぷりである。

ちなみに【白靄さん】とは件(くだん)の謎夢に出て来る白い靄に包まれた【彼】の事だ。かれこれ十五年以上の付き合いになるというのに、一向に姿はおろか、声や名すら明かさない【彼】を、凪は勝手に【白靄さん】と名付けて呼んでいた。場合によっては少々変わった名字に聞こえなくもない為、うっかり溢してしまった際などは彼氏か何かと勘違いされる事も多々ある。

「んー!よし、今日も頑張るぞ!」

ぐっと両腕を伸ばした後、気合いを入れるように声を上げた。何せ今日から自分は本格的に、あの憧れて止まない人気作家、明智光秀の担当編集者なのだから。そもそも、凪が薬草オタクになったのも、幼い頃から見ていた謎の夢が影響している。

子供心に、古めかしい様々な道具を使って薬を作る様が新鮮に映り、いつしか現実でも周囲の植物へ目を向けるようになったのだ。歴史オタクの友人から光秀の著書を勧められた際、案外すんなりとそれを受け入れる事が出来たのも、その夢のお陰と言えよう。ともあれ、自社の看板を背負う程の超人気作家の担当となったからには、誰もが夢中になるような一冊を作り上げたい。清々しい心地でベッドから出た凪は、出社の支度をする為に動き出したのだった。

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