第5章 憤怒
[さん…?]
[え…?]
ことはちゃんが心配そうに覗き込む
彼女の端正な顔が間近で映されあまりにもまじまじと見られるものだから変に頬を赤らめてしまう
[あ…えーと…]
じっと見つめられてしまって動きづらい
何かしてしまったのだろうか
ドキドキしすぎて私の息が止まってしまいそう
[大丈夫…?ボッーとしてたけど…]
(え)
[……ほ、本当!?ごめんごめん…!]
[気にしないで…!]
前言撤回 私がやられていました
あははと笑いながらごまかすしかない
きっと解っているだろうけど
彼女には悟られたくなかった
(………………………)
何を思ったのだろう 私は
"彼"を
条くんと重ねていたのだろう
桜さんと似ているわけでもない
容姿も性格も彼に全然違うものなのにふと思ってしまっていたのだ
いつまでも未練たらしいというかなんというか
未だに吹っ切れていないと言わんばかりだ
[………ねぇ…さ]
[[っ…………!!!]]
[…!何この声…!]
歓声いや怒号が入り混じった声が聞こえる
この様子だと外で喧嘩が起こっているような騒ぎだ
いつ何時巻き込まれても可笑しくない
(………!桜さん!)
出ていったタイミングからしてさっきの人達が戻ってきたのか
だったらまずい
一人じゃ
[……………っ!]
駆け込もうとするも
[さん…!店から出ちゃ駄目だよ!]
[え!ちょっと…!ことはちゃ…!]
(う、嘘!)
私のやろうとしていることがバレてしまったのはともかく
まさかことはちゃんがいくなんて
(それは絶対駄目!)
[待って!!]
止めようとするも手が届かない
彼女は扉から急いで出ていってしまった