第3章 幕間
「……以上が××喫茶で起きた件についての報告となります」
男の隊士が1人、畳に膝をついて頭を垂れる。
鬼の目撃情報を頼りに4人で小さな町に向かった。被害もまだ出ていないとのことでおそらく強い鬼ではないだろうと予想していたのだが……そこに居たのはなんと上弦であった。
自分が客を逃がしていたものの数分のうちに鬼の姿は喫茶から消え去っており、後に残されていたのは無惨に食い殺された友人だったものの隊服の残骸のみであった。そこには肉や骨の一片すら落ちてはいなかった。
自分は偶然生き残った……というより、見逃された。きっとあの鬼はこうして自分が戻り報告されたところで痛くも痒くもないと思っているのだろう。それがまた腹立たしい。
「……報告は分かりました。良く帰りましたね」
蟲柱、胡蝶しのぶは黒い髪を揺らして頷いた。蝶の髪飾りが陽の光に煌めいている。
彼女はあまり感情を表に出す人ではないが、どことなくその表情には怒りが滲んでいるように見えた。
「目下の問題はその上弦の弐に囚われているという女性ですか。その方の遺体は見つからなかったのですよね?」
「はい。今生きているかどうかは分かりませんが…少なくともあの現場では死亡した形跡がありませんでした」
「妙ですね。なぜその人だけ生かしたのか」
「それが……」
記憶を手繰り寄せるように一度だけ言葉を切る。そして再度顔を上げた。
「その女性、何やら妙な気配がしたのです。間違いなく人なのですが、人ではない気もするというか……生命を感じなくて」
「生命を感じない? 要領を得ませんね」
生命のない人間などいるはずがない。あの鬼の血鬼術かとも考えたが、あの女性からは何かに操られていたり憑かれてるような気配はしなかった。
「なにか特別な理由があって生かしたのかもしれませんが……いずれにせよ、その女性のことも迅速に保護して差し上げなくてはいけませんね」
一つ頷くと柱はそれで話を終えたのか、軽く会釈をしたのちに自分の業務に戻って行った。
去り際に見えたその横顔からは、やはり険しい苛立ちのようなものを感じた。