第5章 仮契 〜契初〜
家に帰りご飯を作ってテーブルに置く。時計の短い針は9を少しだけ超えて、10に近付いていた。
スマホを弄りながら待っていても玄関の扉が開くことはない。気付けば23時を過ぎていた。
訓練の疲れや今日泣いてしまったのもあり、眠くなってきてしまう。
「お腹空いたよ、宗四郎さん…」
スマホを抱えたまま玄関まで来て、壁に寄りかかりながら座った。早く、会いたい…帰る前に会ったのにもう会いたいです。
スマホの画面をちらちら見ては溜め息をついた。通知音が鳴ってもそれは同期のグループチャットだった。
連絡くらい…いや、仕事をしているのだから、連絡が来るはずないと、スマホを持った手を床に落とした。
「……好き、好きなのに…」
この気持ちを持つことすら、罪なのだろうか。答えなんて知るわけもなくて、ただひたすら、玄関の扉が開くのを待った。
歪む視界を見たくないと目を閉じれば、雫が零れ落ちる。私はもう目を開くことはしなかった。
私が帰りを心待ちにしてるなんて、知らないんだろうな…。