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偽りの私たちが零す涙は【保科宗四郎】

第1章 プロローグ


香の香りが漂う中、お坊さんの経を読む声が響いていた。外からは遠くで囀る鳥の声がする。
白い花に囲まれた男女の写真…私のお父さんとお母さん。
参列者は両親が所属していた第3部隊の面々に、お父さんと仲が良かった保科家の人々、両親の友人たち。ほとんど知らない人たちだった。忙しい両親はほとんど家にいなかったのだから、私は知らない。

真っ黒な隊服ばかりが並ぶ式場_ほとんどが防衛隊員だ。その中で幼い私は背筋を伸ばして両親の写真を見つめていた。
泣く必要はない、だってそれは...__

「泣かへんの?」

隣に座っていた私よりも幾らか歳上の少年が話しかけてくる。隣に座っているので、恐らく保科家の人。まだ幼さが残るその顔立ちは目が細く、開いてるのか閉じているのかわからない。変な形で切り揃えられた前髪、所謂オカッパという髪型の彼は、首を傾げて私を見ていた。

「涙あげたら、本当に怪獣に負けたみたいだから…負けてないもん、お父さんとお母さんは…負けてないもん!」

経の声を掻き消すように、幼い女の子の悲鳴にも似た悲痛な声が響き渡る。
小さな拳を握り締めて振り絞った声のせいで、喉がじんじんと熱を持ち痛みを発する。

「そやな、負けてないな。やけど…涙には色んな意味があんねんで?"お疲れ様"て言ってやりぃ、"おおきに"て言ってやりぃ」

優しく諭すような彼の声は私の胸にドンッと大きな衝撃を与え、心の奥深くに突き刺さる。飄々とした表情からは想像も出来ないような、不思議な力がある言葉。

でも、おおきにって言わないよ…私、関西人じゃないもん。


まだ幼かった私はその言葉を理解することは出来なかったけれど、何かとても大きな意味があるように思えた。だって…防衛隊員になった今も、ずっと覚えていて、支えられているのだから__。
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