第98章 努力〜時透無一郎 【R強強】
無一郎に心中を明かしてから、一月が経とうとしていた。
あの日以来、彼は私を求めなくなった。
それどころか抱きしめてくれることさえなく、その瞳は冷たいままだった…。
代わりに彼は美月の稽古や、まだ見つからない簪探しに付きっきりになった。
それがまるで、義勇さんを忘れられない私への当てつけのように感じられて、胸が痛かった。
ある朝、いつものように三人で食事を取っていた。無一郎くんは私に視線すら向けず、一言も話し掛けてはくれない。
耐えがたい沈黙に負け、私はいつも通り先に箸を置いて部屋を出る…。毎日そうしていた
「無一郎様、それでですね……無一郎様? 無一郎様?」
「あ、ああ、何だっけ?」
美月の声に、無一郎はハッと我に返る。
その視線は、ゆきが出ていった後の襖にあり、心ここにあらずだった。
冷たく突き放しながらも、無一郎の心はゆきに囚われたままだった。
ゆきは週に二日ほど、甘露寺蜜璃の屋敷に珍しいお菓子作りを教わりに通っていた。
けれどこの日はどうしても涙を堪えきれず、甘露寺の前でボロボロと泣き崩れてしまった。
無一郎との冷え切った関係、そして「義勇さんを忘れられない」と伝えてしまったことを、震える声で相談する。
「そんなの悲しすぎるわ……! でもね、ゆきちゃん。無一郎くんが冷たいのは、それだけゆきちゃんを愛しているからだと思うわよ。」
蜜璃はゆきを優しく抱きしめ、涙ぐみながら言葉を続けた。
「男の子って、好きな人の一番になりたい生き物だもの。彼もどうしていいか分からなくて、寂しくて堪らないのよ。それと…冨岡さんの事だけど…もういいのよね?」
蜜璃の温かい抱擁と、その言葉にゆきは僅かに動揺する…
「忘れる努力はしてます…」
「そっか…ずっと一緒だったし。ゆきちゃんの初恋は冨岡さんだものね。」
「…」
「取り敢えず!今日作ったこのお菓子持って帰って無一郎くんに、渡してあげて。今日は、無一郎くんのお誕生日だからゆきちゃん頑張って作ったでしょ!」
「うん…。甘露寺さんいつもありがとう」
「そんな悲しい顔しないの!さぁお菓子を包みましょう。」