第86章 無一郎と美月の秘密【R18】
二人は、義勇の屋敷に隣接する竹林の傍らの広場で手合わせすることになった。
ゆきは、痛む背中を庇いながら、二人の殺気立った空気を見守るしかなかった。
木刀が当たる打撃音が、静かな竹林に響き渡る…。
無一郎の変幻自在で高速な攻めに対し、義勇は「水の呼吸」の真髄とも言える動きでそれを受け流す…。
互いに一歩も引かない、柱同士の激しい打ち合い。
しかし、無一郎の瞳には静かな怒りが宿っていた。
木刀を激しくぶつけ合い、至近距離で睨み合いながら、無一郎が低い声で問い詰める。
「…なんで、昨日ゆきをあんなに痛めつけたの? 体中痣だらけじゃないですか?」
「本気で稽古をつけた。それだけだ…今まで甘すぎた。」
義勇の淡々とした答えに、無一郎はさらに踏み込む。
「嘘だ。自分の迷いや、ゆきへの整理のつかない気持ちを紛らわせるために、わざと冷たく当たった…それで加減が分からなくなった。違いますか?」
図星を突かれたのか、義勇の動きが一瞬止まり、沈黙が流れる。
「…黙った。図星だよね」
「違う…」
「違わない。ゆきの心も体も傷つけるなんて、僕は絶対に許さないから」
無一郎の放つ威圧感が増し、木刀に凄まじい力が込められた。
その瞬間、限界を超えた負荷に耐えかね、二人の木刀が同時に真っ二つにへし折れた。
不運にも、折れて尖った先端が、風を切る速さでゆきの方へと飛んでいってしまった。
「あ…っ!」
避ける間もなく、ゆきは反射的に目を閉じた。
しかし、衝撃は来なかった…。
鈍い打撃音と共に目を開けると、そこには自分のすぐ目の前で、飛来した木刀の破片を素手で弾き飛ばした義勇の背中があった。
「…怪我はないか」
低く短い声。その腕からは薄っすらと血が滲んでいる。
「義勇さん、腕が…!」
心配して駆け寄ろうとするゆきだったが、その腕を無一郎が強く引いた。
「…助けてくれたのは認めるけど、まだ話は終わってないからね!許さないから」
無一郎は、ゆきをおもむろに抱き上げた。
「帰るよ」
「で、でも…義勇さんの手当てしないと…」
「まだそんな事を言っているの?隠がやってくれるさ。今日は帰るよ」
義勇は、腕に血をにじませながら立ち尽くしたままだった…。