第44章 消えた薬〜冨岡義勇 時透無一郎
「胡蝶すまない。こいつを休ませてやってくれ」
「あらゆきさん。どうぞそちらで休んでいってください。」
しのぶは、そう言うと何やらずっと戸棚を開けたり奥を覗いたりしていた。
「何か探してるのか?」
義勇が、不思議そうに聞いた。
「数日前からある薬が消えたんです」
「どんな薬だ?」
「幻覚を見せる薬です。親族を亡くされた方や恋人を亡くされた方が、会いたいのに会えなくて体調に支障が出る時に特別に、お出しするお薬なんです。」
「そんな薬があるのか…」
「はい。その薬の数が足りず誰かに盗まれたようです…悪用されないか心配で」
ゆきは、ベッドで横になりながらそんな薬があるんだ…と思いながら聞いていた。
〜〜
無一郎は、義勇に連れて行かれたゆきが気になって仕方なかった。
「無一郎くん急に立ち上がってどうしたの?」
「どうでもいいでしょ?」
蝶屋敷の中へ入って行った。
廊下で、しのぶと義勇がなにやら深刻そうに会話をしていた。近くにゆきの姿は無かった。
療養部屋を、ゆっくり覗いていった。
いない…いない…いない
奥のいつも、皆を診察する部屋が最後だった。
中を覗いた…。
ベッドで、涙の跡が残ったまま眠っているゆきがいた。
長い睫毛は、涙で濡れていて透き通る肌に涙の跡…
桜色のかわいい唇が、愛おしいほどかわいい…。
僕が前にきつく手首を握って付けてしまった傷が、まだ微かに残っていた。
寝息までもが、可愛くて愛おしい…。
無一郎は、起こさないように近づいた。かわいい唇に触れたくて指を伸ばした…。
「無一郎くん」
凛が隣に立っていた。
「なに?なんでここに…」
無一郎が、話している途中に凛は、無一郎の両頬を持って口づけをした。
「んっ////」
物音が、して目が覚めた…。見慣れた少し水色がかった隊服が見えた。そしてあの長い髪…
そして……
二人がなぜか、私の目の前で口づけを交わしてた…。
凛が得意気な表情で、私を見ている…。あぁそうか…好きな人の口づけを、目の当たりにするとこんな気持ちになるんだ…
「離せよ!俺に触れるな!」
無一郎が、ものすごい剣幕で凛を突き飛ばした。
騒ぎを、ききつけ義勇としのぶも部屋に入ってきた。
ゆきの目から涙が溢れていた。