第39章 加速する想い〜冨岡義勇 時透無一郎【R強】
「ここまでしないと匂いなんて移らないよ…」
ゆきは、何も言い返せなくて黙ってしまった…。
無一郎は、ぎゅっとゆきを抱きしめた。
「何か言いなよ…」
ゆきが、困り果てていたその時…
「稽古はきちんと付けている」
この声…… 無一郎は、声のする方を見た。
道場の入り口に、義勇が立っていた。
「冨岡さん 悪趣味だな〜人の抱き合う所見るなんて」
無一郎は、冷めた表情で義勇を見ている。
「教えてやろう。稽古中は真剣だ触れ合う機会など一切ない。
だが…稽古以外の時に、俺はゆきに触れていた…。香りが移るくらい触れていた…。嫌がられても抱きしめた。」
無一郎が、手を握りしめている。
「時透 もっと知りたいか?抱きしめる以外の事も」
「義勇さん!!やめて!」
ゆきが、そう叫んだ時に無一郎はゆきの手首を掴んだ。
「聞きたいから、黙れ」
見たことのないとても怖い顔だった。私のまったく知らない無一郎くんの顔と声だった。
ゆきは、義勇の顔を見た…
俺に、向けられたゆきの表情は「言わないで」って言っているようだった。
正直ここで今、どんな事を、時透に黙ってしてきたかを吐き出せば、時透はゆきを見切って諦めるかもしれない…。
ゆきが、時透に嫌われるかもしれない…。
嫌われたら…
お前は、泣くだろうな…辛いだろうな…
だって今現在…俺を見つめるお前の目には、すでにいっぱい涙が溢れている…。
「冨岡さん?早く聞かせてよ」
無一郎の声で、義勇は我に返った…
「いや…口づけをしようとしたが、拒まれた。それだけだ。」
「バカにしてます?俺の事」
「バカにしていない。今日は俺が警備の当番だ。よろしくな」
無一郎は、腑に落ちなかったがなぜ急に義勇が言わなかったのか不思議だった。
「外に居る隠に、待機する部屋聞いてください。鬼はどうせ来ないので、その部屋で休んでもらったらいいですよ。」
「承知した」
義勇は、道場を後にした。
静かな道場に、無一郎とゆきが取り残された。
無一郎が、掴んでいる手がジリジリゆきの手首を締め付ける…。
痛いけど我慢した。
だって無一郎くんの心が一番痛いと思うから…。