第36章 逢引と移り香〜時透無一郎 冨岡義勇
僕に真っ直ぐな視線をぶつけてきて冨岡さんは、言った。
「…僕はずっと疑ってます。あなたとゆきを」
「そうか…」
義勇は、無一郎から背を向け蝶屋敷を後にしようとしていた。
「僕がゆきの側に居ない間にゆきに触れないでくださいね」
その言葉を聞き義勇は振り返った。
「ゆきがもし俺に淋しい側にいて欲しいと言ってきたら師範としてではなく一人の男として側にいる 別にゆきはお前の物ではないからな…時透…」
無一郎は何も言い返せなかった。
自分の前から去る冨岡さんからまたゆきの香りがしてきた。
こんなに匂いが移るって…何してたの?ゆき…
絶対に、ずっと抱き合わないと移らないよ…
僕にはゆきの匂いは移ってないもん…
僕からは何も匂いはしない…甘いあの香りは移ってない
無一郎は、自分の隊服を匂ってみた
微かにする匂いは、この蝶屋敷で使う消毒液の匂いだった。
〜〜〜
蝶屋敷の帰り道、義勇は考えていた。
時透は勘づいている。俺とゆきに何かあると…
匂い?いつも俺はゆきに触れて抱きしめているから自分にもあの甘い香りが移ってるとは気づかなかった。
そんなにするのか、俺からゆきの香りが…
義勇は無性にゆきに会いたくなった…
明日の朝が待ち遠しかった。稽古にゆきが来る朝が待ち遠しかった。
〜〜〜
蝶屋敷では、無一郎は考えていた。目の前では怪我をした凛が眠っている。
炭治郎に、言われた…
僕は凛が好きなのか?だから気になるの?でも凛に気が行けば行くほどゆきと冨岡さんが近くなっていく。
もう夜中だった。
無一郎は思い立った…立ち上がりゆきが待つ屋敷に戻ろうと思った。その時…
「無一郎くん…どこ、行くの?」
凛が目を覚ました…
義勇は、自身の屋敷には戻っていなかった。ゆきの元へ向かっていた。会いたくて仕方なかった。
絡み合うそれぞれの想いが糸のように…
ゆきは、眠れずに縁側に座って星を見ていた。
中庭に目をやった
思い出す光景…無一郎と凛が二人で紙飛行機を飛ばしていた光景…
思い出す…二人が抱き合っていた所も見た…
その二人は今一緒に居る…