第4章 薄紅色の恋(冨岡義勇)
水柱様の真剣な顔つきに、断るのを躊躇ってしまう。
『あの、水柱様…
その…雫さん…という方は水柱様の…大切な方なのですか?』
「…………」
『ぁ…申し訳ありません…』
「いや…そうだな。きちんと説明しなければいけない。何もわからずこんな事を言われて、お前が戸惑うのもわかる。少し、時間をくれないか?」
『ぇ…今…でしょうか?湯浴みの支度が遅れてしまいます…』
「構わん。上長にも俺から話をしておこう。
ついて来い…」
そう言うと、水柱様は自分の部屋に向かって歩き出した。
水柱様の自室…
隠と言えど、上長ですら入る事が許されていない部屋に、私なんかが…
緊張で足が震えてしまう。
それくらい、雫さんという方は水柱様の大切な方なんだ。
なら例え別人であっても、きちんとお話を聞いて、向き合わなければならない…
覚悟を決め、水柱様のお部屋に向かった。
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side 義勇
神妙な面持ちで話を聞いてくれた雫。
『では…幼い頃にその…雫さんは…滝に落ちた後見つからなかったという事ですか…?』
「そうだ。いなくなった時期、雫と同じ顔…体にあるホクロ…全てが繋がる。
お前は滝に落ちた後記憶を亡くし、今の両親が何らかのきっかけでお前を育てたと俺は思っている。
だがそれはただの予想だ。お前の両親から、直接話を聞きたい。」
『わかりました…
ですが水柱様…もし私がその…雫さんだったとして…私にできる事はあるのでしょうか…?』
「…っ……」
『…っ…申し訳ありません。ですが…
水柱様が仰った事が事実で…私が雫さんだったとしても…記憶がない以上、私は雫さんにはなれません…
両親と縁を切るつもりもありません。』
胸の前で拳にギュッと力を入れて、小さな声で話す雫。
「そうだな…
とにかく俺は…事実が知りたい。それだけだ。」
部屋から俯いた雫が出ていく時、そっと頭に触れた。
「安心しろ…仮にお前が雫でも、今の暮らしを変えさせるつもりはない。」
side 紗耶
水柱様の悲しげに歪む顔が目に入り、胸が締め付けられた。
『はい……両親を…こちらに呼び寄せます。』