第4章 薄紅色の恋(冨岡義勇)
「…灯台下暗しだな。」
『…?…水柱…様?』
驚いたように俺の顔と掴まれた腕を交互に見つめる隠の女。
「…俺が…どれ程お前を探したと思ってる…
どれ程…」
『痛っ…』
つい、手に力を入れすぎてしまった。
「…っ…すまない…」
焦って掴んだ手を離すと、隠はわけがわからないと恐怖に怯えた表情で俺を見た。
「お前は…雫だろう?」
『雫…?違います…私は紗耶です。
水柱様…私をどなたかと勘違いされていらっしゃいます…』
確かに女の瞳には嘘は一つも隠されていないようだった。
だが…
「…いいだろう。ならば確認させてもらう。」
俺は女のボタンを外し、胸元を開いた。
『みっ…水柱様…』
柱の行動に抵抗することなく、されるがままになった女の胸元と肩には、いくつものホクロが並んでいた。
"義勇っ、錆兎、見て見て。
私の体にはね、空に光る七つ星があるんだ。"
"馬鹿っ…お前やたらと男に体を見せるなよ。"
"本当だ…雫凄いねっ。星に守られているみたいだ。"
やはりこの女は雫で間違いない。
隠の服を掴む手が震えているのがわかった。
なぜ嘘をつく…?
『水柱様…あの…もうよろしいですか?』
はだけた服をなおし、酷く傷ついた顔で一礼すると、隠はその場を立ち去った。
その晩俺は、鱗滝師範に鴉を飛ばした。
"雫がいました。しかも鬼殺隊の隠として。
本人は、しらを切っていますが絶対に雫で間違いありません。"
雫…
俺と錆兎、雫は鱗滝先生の元で共に育てられた。
あの日…
雫が滝に落ちた日の事をよく覚えている。
目の前から雫が俺を見て悲しそうに落下していく顔が頭から離れず、眠れない日々が続いた。
滝の下、川下付近の村…何度探しても、どこを探しても雫は見つからなかった。
危険だから行ってはいけないと言われていた場所で、なぜ遊んでいた?なぜ手を掴んでやれなかった…
後悔してもしきれなかった。
あの日から、雫を忘れた事は一度たりともない。