第2章 若草色の恋(不死川実弥)
「相澤ー…早く帰れぇ…
皆帰っちまったぞ。俺も職員室早く戻りたいんだわ…」
『…………』
外を眺める生徒の薄いグレーの髪がサラサラと風になびく。
ったく…
コイツ、相澤雫は本当に変わり者だ。
帰りのホームルームが終わっても、いつも最後まで居残り、窓を少し開けて空を見つめている。
少し前に理由を聞くと、風が気持ちいいのだという。
風なんざ外でいくらでも感じたらいいだろうが…
早く職員室に戻って小テストの採点をしたい。
「相澤、俺はもう行くぜ…窓、ちゃんと閉めてけよ。」
戸締まりは担任の責任。
生徒がきちんとしないと後々面倒なので、できれば最後に教室を出たかったのだが…
教科書と小テストを持って立ち上がると、教室を出ようとした。
『不死川先生…』
「…ん?…どうした?」
『先生は……』
薄緑色の瞳が俺を捉える。
『前世の記憶って…信じますか?』
「…はぁ?前世?何だぁ?いきなり…」
また変な質問してきやがった。
ツラだけは、大人もたじろぐ程本当に綺麗だが、こいつのこういう雰囲気にだけは少し…気持ち悪さを感じていた。
何だよ前世って…宗教の勧誘か?
『…っ…突然すみません……何でも…ないです。』
パタパタと教室を出ていく相澤。
「だから…窓閉めろって…」
深くため息をついて相澤の席まで歩いていき、窓に手をかけながら空を見つめた。
「……風ねぇ…」
アイツを気味が悪いと思う理由はいくつもあるが、1つ目…
実は俺も風を感じるのが好きだ。
小さい頃、遊園地の子供用ジェットコースターで感じた風に味をしめ、大きくなってからは絶叫系の乗り物に乗りまくり、バンジーにハマり、より長く風を感じたくて海外までバンジーをしに行った事もある。
ビルの上から落ちる爽快感。
不思議な事に、長く風を感じる度に心が落ち着いた。
どこか懐かしいような感覚もあった。
だから俺は…
「前世の記憶なんざねぇが…
多分俺の前世は鳥だ。」
風に取り憑かれるなんざ変わってるに決まってる。
故に人には言ってねぇが、まさかアイツと同じとは…
「ツラだけはマジでいいのに、残念な奴…」
窓を閉め鍵をかけると、俺は職員室まで向かった。