第1章 群青色の恋(冨岡義勇)
『………?』
コソコソと女将が耳打ちすると、雫が真っ赤になって焦った。
何を話したのか…
『お元気で。また必ず戻って参ります。』
馬車に乗り込むと、雫が女将の手を握り、最後の挨拶をした。
パカッ……パカッ……
「後悔していないか?」
『ぇ……?』
「あの屋敷にずっといたかったか…?」
『……淋しくはありますが…
義勇様と離れる事が、私には、一番辛いので…』
「そうか……」
『はい。』
「雫…少し前に言った事だが…」
『……?』
「俺の全部をお前にやる、と言っただろう。
何か…欲しいものはあるか?」
『欲しい物…ですか?』
ない、というのだろうと思っていたが…
『では…1つだけ……』
雫がそう言ったので驚いた。
「何だ。」
『義勇様が…いつかお貸しくださった群青色の手巾を…いただけませんか?』
「…そんな物でいいのか。」
雫は頬を赤らめて言った。
『あの手巾を見ながら毎日…色んな事に耐えてきました。
辛い時も淋しい時も、あの手巾があったから乗り越えられました。いつかまた、きっと義勇様に会えると信じていたから…
義勇様がお仕事でいらっしゃらない時もお守りにして、持っていたいのです。』
「…わかった。
では…町で匂い袋に仕立ててもらうのはどうか。」
『わぁっ…凄く素敵です。中身は藤の花の香がいいです。』
「あぁ…また屋敷に行こう。」
楽しみです、と笑う雫の頬に触れた。
『義勇様…?』
鬼殺隊でいる限りは命の危険とは常に隣り合わせ。
明日の命の保証もないが…
だからこそ、後悔のないよう伝え続けよう。
「雫…愛している。」
頬を染めながら、ふわりと微笑む雫の笑顔を
いつまでも守りたいと思った。
ー群青色の恋ー
完