第1章 群青色の恋(冨岡義勇)
「では、冨岡様…買い出しの付き添い、よろしくお願いしますね。ごゆっくり行ってらっしゃいまし…」
ふふ、と笑って俺たちを外に追いやる女将。
気づいているか…無理もないな。
『…あの……』
「…何だ。」
モジモジとする雫。
『あの…今日は義勇様と二人でお出かけ…嬉しいです。
私、あまり町に出かけたことがなくて…』
頬を染めて俯く雫は、本当に俺の知る雫ではない程、美しく見えた。
「そうだな…少しくらいゆっくりしても大丈夫だろう。
女将もああ言っていたし…」
女将に何か買っていかねばな…
買い出しは思ったほどなく、調味料が主だった。
途中、店で甘味を食べたり、雫の髪飾りや女将への土産の菓子を見たりしていると、徐々に雲行きが怪しくなってきた。
『午前中はあんなに晴れていたのに…』
するとわずか数分で、ポツポツと雨が降り出した。
草履屋の軒下で雨宿りをしていると、店の旦那が
「今日はもうこの雨、止まないよ。台風が来るから用心した方がいい。」
と店終いを始めた。
「家はここから少し遠い…
山道を通らなければ帰れない距離なんだが…」
「山道っ…?土砂が崩れたら危ないよ。
女の子連れてるんだ、今日はもう、どこか泊まった方がいい。」
「………」
泊まる…?
そんな事ができるわけがない。
『…あそこに泊まれませんかね?』
雫が指差した先は…
「雫っ…あそこは違…」
『人が立っているので聞いてきます、お待ち下さい。』
「っ…雫…」
バシャバシャと雨の中を走り、建物の前にいる主人に確認すると、こちらへ戻ってきた。
『大丈夫だそうです、二人泊まれます。……義勇様?』
「雫…あそこがどんな場所か知っているのか?」
『宿…じゃないのですか?』
建物の外には立派な灯籠がある。
雫が間違えても無理はない。
それに雫は町にあまり来たことがない。
「間違いではないが…」
『…っ…申し訳ありません、義勇様。
私などと外泊するのは…お嫌でしたよね。』
深々と頭を下げる雫。
違う…そんな事では…
雫が話をつけてきたのは…
待合茶屋だった。