第15章 潔白
「…やはり、そちらの方が良いな。」
『え…?』
「は…、
泣いている顔や苦しんでいる表情より
笑っているのが1番似合う…。」
『そ、そうですか…?
でもさっきの親子2人には
地味だって言われてましたけど…。』
「あの2人の言う事など間に受けるな。
お前の笑顔は……誰よりも可愛らしい…。」
『っっ…』
突然の甘い言葉にドキッとさせられて
どんな反応をすればいいのか分からず、沈黙が私達を包み…
私は話をすり替えるように冨岡さんに声を掛けた。
『あ、あのっ…!
今回は冨岡さんに凄くお世話になったので
何かお礼をさせて頂きたいんですが!』
「礼はいいと言っただろう。」
『そういうわけにはいきません!
私に出来る事なら何でもしますから
遠慮なく要望を言って下さい!!』
「…。何でも…か…?」
『はい!何でも!』
私1人の力では大した事は出来ないかもしれないけど、冨岡さんが望む事ならなんでもしてあげたくて
張り切りながら返事をしつつ、冨岡さんの要望を頭の中で勝手に予想してみた。
この前行ったお店の鮭大根を奢って欲しい、とか
柱の仕事の手伝いをして欲しい、とか
稽古に付き合って欲しい、とかが無難かな…?
果たして私の予想は的中するのか、
冨岡さんを見つめながら正解を言ってくれるのを待っていると、冨岡さんの手が私の手に伸びて来て、ギュッと優しく繋がれていた。
「…俺の屋敷に来い。」
『へっ…?い、今からですか…?』
「あぁ。…まだ仕事が残ってるか?」
『いえ…。急ぎの仕事は特に無いので
抜けるのは問題ないと思いますが…』
…何で屋敷に来て欲しいんだろう?
私の予想とはかけ離れた要望で
どういう意図があるのか分からずにいると
繋がれた手の力が少し強くなった。
「俺の願いは…、お前と2人きりで時間を過ごす事。」
『!?そ、そんなことでいいんですか…?』
「…行くぞ。」
『あっ…』
優しく手を引っ張られ、私達は手を繋いだまま
冨岡さんの屋敷へ向かうことになった。
何でもするとは言ったけど
まさかそんなお願いをされるとは思わなくて…
戸惑う気持ちを抱えながら
私は黙ったまま手を引かれる事しか出来なかった。