第8章 会いたい気持ち
♢ Side 雅 ♢
そう…みんな速いんだよ…
アンリも、風見さんも…新条さんもグーデリアンさんも…ハイネルさんや、ランドルさんも……・・・みんな速くて…
加賀さんも…すごく速くて…
そんな人の隣に立ちたいなんて思い上がりもひどいもので…
だけど、それでも好きで仕方なくて、どうにもならない。
好きだって伝えて、それでも俺はやめた方がいいなんて体の良い断り文句を言わせてしまって…
それでもずっと…加賀さんを追ってしまう…
アンリも言ってた。
『加賀は一人しかいないんだよ』
って…そんなの解ってる…でも、なんでか加賀さんしか無理で…他の人の事なんか見れなくて…
会いたくて会いたくて…やっと会えたと思ったら…他の人とキスするとかって…
「詰んでるとしか言いようないし…」
そう呟く声は誰に聞かせるでも、届けるでもなく、ただの独り言だった。
スマホを取り出して、加賀さんの連絡先を開く。
「…声…聴きたい…けど…」
気まずい…こんなんじゃ思いやられる…それならいっその事嫌いになれたらいいのに…そんなことまで考えちゃうのに…
居るかどうかの確信も無いままに『行く』と言っていたなんて言葉を真に受けてサーキットに来ちゃうくらい好きで…
モニター越しにでもその姿が見えたら嬉しくて…
私の事見てくれてなくても…それでもたまにふと視線が合ったかもなんて思うくらいの事があれば自分に都合のいい様に解釈だってしちゃうし…
「ほんと…ダサい…こんなの…」
スマホはしまって…明日、きっと来るか来ないかなんてのもわからない…走りはしないっていうから…来ない方の確率も高い。でも…加賀さんなら来ると思う…
「会いたい…」
私を見てくれなくてもいい…一瞬でも…視界に加賀さんが見れたなら…それだけで嬉しくなる…
だから…
「もう少しだけ…好きでいさせてほしい…」
そう呟いた言葉は…昨日とは打って変わってピーカンな空の中に消えていった。
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