第23章 過ぎていく疾走
「…なんかすごく久しぶりにアンリのそれ聞いた…」
「だってバカなんだから仕方ないだろ…」
雅の不安などお構いなしにアンリはそうきっぱりと言い切る。どさりとソファの背もたれに凭れたかと思えば、目を細め、じっと見ていた。
「…だってそうじゃん?」
「なにが?」
「バカなんだって事。」
「あのねぇ…」
「そんなの解ってる事でしょ?チームが違う、それに加えて速い人だったら自分のチームのドライバーときわどい戦いになるのなんか解ってるでしょ」
「…ッッ」
「それすらも解らないで付き合いだしたわけじゃないでしょ」
「…ん…」
「なら今更だって話。それに雅が加賀と付き合ってるから風見先輩が不調ってのは関係ない事だよ」
「そう、なんだけど…」
「それに…」
そういえばアンリは珍しくもフッと笑みをこぼそう。
「どっちにしても雅は誰付きなわけ?」
「え?」
「風見先輩付きで、加賀と付き合ってから風見先輩が成績不振ならサポート不足ってのもあるだろうけど」
「アンリ…だね」
「でしょ?とはいっても僕も成績よくないかもしれないけど…それでも不調じゃない」
「…ん」
「だから問題はない。そうでしょ?」
アンリ的に一生懸命フォローしているのだろう。それがよくわかった。
雅もまた笑みがこぼれ、仕事に打ち込むことにするのだった。
***
そうしてGPも過ぎていく。第9,10ラウンドとハヤトが復活を見せるかの様に1位を取っていった。そうして加賀も順当に2位をキープしている。
「残り2ラウンドか…」
そうしてミーティングも始まっていく。
10ラウンドまで終わってハヤトが52ポイント、加賀が62ポイント。残り2回でハヤトが2度1位を取っても加賀が2位を取り続ければ逃げられる。
「ここまで接戦になるとはな」
「…本当に…」
スゴウは出来る限りアンリにフォローをするように伝えた。