第1章 元貴とモモカ
### モモカと元貴の物語
深夜のスタジオ。コンクリート打ちっぱなしの壁に、無数のケーブルが這う。その真ん中で、元貴はヘッドホンを外し、ため息をついた。
「んー、なんか違うんだよな…」
新曲のメロディが、どうにもしっくりこない。煮詰まって、もう何時間経っただろう。時計の針は、とうに日付をまたいでいる。
「元貴、大丈夫?」
背後から優しい声がした。振り返ると、モモカがマグカップを差し出していた。湯気と共に、甘いココアの香りがふわりと漂う。
「あ、モモカ。起きてたのか」
「うん。眠れないみたいだったから。少し休憩しな?」
ベンチに並んで座り、ココアを一口飲む。温かさが喉を通り、疲れた体にじんわりと染み渡る。
「ありがとう。ちょっと、行き詰まっちゃってさ」
「私にできること、あるかな?」
元貴は、ふっと笑ってモモカの頭を撫でた。
「モモカがいてくれるだけで、十分だよ」
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数日後、元貴は再びスタジオにいた。あの夜のココアのおかげか、メロディの断片が少しずつ形になっていく。しかし、歌詞がうまく書けない。漠然としたイメージはあるのに、言葉にできないもどかしさ。
ふと、机の上の小さなメモが目に入った。
**「元貴、がんばれ。応援してる。 by モモカ」**
その短い一文に、心が温かくなる。そうだ、俺は一人じゃない。モモカが、いつもそばで支えてくれている。
その想いが、元貴の心に新たなインスピレーションをくれた。ペンを手に取り、一気に書き上げる。
**「君のくれた温かさが、僕の歌になる」**
それは、モモカに贈る、世界でたった一つのラブソングだった。
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新曲が完成し、ついにリリースされた。
ライブのMCで、元貴は照れくさそうに言った。
「この曲は…俺の大切な人に向けて作った曲です」
モモカは、客席の後ろでその言葉を聞いていた。スポットライトを浴びて輝く元貴の姿は、いつにも増して眩しい。
そして、元貴が歌い始めた。メロディに乗せて響く、あの夜、あのココアから生まれた愛の言葉。
モモカの目から、一筋の涙がこぼれ落ちる。それは、最高のラブソングと、最高の愛を、元貴からもらった喜びの涙だった。