第15章 炎上
「お菓子をお持ちしました」
そう。京旅行に行く前、私と琴葉は信長様の好きな食べ物を当てて来いとう賭けを見事当てた。
まあ、現代に帰らないと決めていたので賭けをする意味はなかったけど。信長様の好物を知れる絶好のチャンスだと考え、賭けを続けていた。
「(考えても分からなかったからダメ元で金平糖を献上したら当たっていたなんて‥‥)」
信長様は大の金平糖好きで食べすぎて秀吉さんに没収される事もしばしば。なのでこうして私が時折こっそり持ってくる事になった。
「(世話役の任だ、なんて言われたら断りずらいし。にしても少し食べ過ぎな気がする。糖尿病にならないか心配だわ)」
すでに瓶の半分程は食べている。本当に心配になって来たわ。
「信長様、あまり食べ過ぎないように。糖尿病になりますよ」
「とうにょうびょう?なんだそれは」
「飲水病とも言うべきでしょうか。甘いものを食べすぎると体内にある血糖値という値が上がり、喉の渇きや手足の痺れ、視力が低下する病です」
信長様は私の説明で理解したようだ。理解力が恐ろしい。
「案ずるな、そのようなもので俺は死なん。秀吉が口うるさいのもわかっておる。だが今回は貴様に免じて暫くは控えよう」
「一日二つくらいなら構わないと思います。一気に瓶の半分程食べるからダメなんです」
「好きな時に好きなものを好きなだけ食して何が悪い」
そう言った信長様は少し子供っぽく見える。おやつを取り上げられそうになっている子供みたいだ。
「(信長様もこんな顔をするのね。ふふっ、可愛い)」
「貴様、今何を考えておる」
「いえ、特に何も」
「(可愛いなんて言ったら絶対怒るだろうから、やめておこう)」
部屋を退出し、廊下を歩いていると光秀さんがいた。
「こんにちは、光秀さん」
「ああ、お前か。信長様の元へ菓子献上しに行っていたのか」
光秀さんには全てバレているようだ。秀吉さんが少し鈍いだけなのか、
「そうです、これも世話役の一つですので。あ、明日も稽古、お願いしますね」
私は光秀さんに砲術だけでなく剣術も少々教わっている。
男装する上で刀を腰に下げていないと町では不自然だからだ。