第10章 毒夢
夢を見ていた。
長い、長い、夢。
自分の弱さを知った。大事な人達を一瞬で失った。
今でも脳裏に焼き付いている。
「ママ、パパ!みて!ぞうさんかいたの!」
「おお!上手に描けているなあ」
「美桜は将来、絵を描く人になるのかな」
「じゃあ、わたしがもっと上手になったらパパとママをかくね!」
幸せだった。両親に愛され、何一つ不自由のない生活をしていた。
「ママー、パパー!どうかなあ?上手になったかなあ?」
あれから絵をさらに描き、初めて母と父の似顔絵を描いた。
まだまだ上手くはないが、2人は私が描いた絵を心から喜んでくれた。
「上手に描けたわね!壁に飾りましょう!ありがとうね、美桜」
「ああ!ありがとう、美桜。また描けたら飾ろうな!」
疑う余地のない円満具足な日々だった。破壊されるなんて露ほども思わず、時は流れた。
あの日は雨だった。嵐で雨音が強く、家の壁を登って2階の窓から男が入っていることに暫く誰も気づかなかった。
ガタンッ!
「ん?今何か音がしたな」
「そうね、2階からだわ。何か落ちたのかしら」
「一応様子を見てくるよ。2人はここで待ってて」
父が階段の方へ向かって直ぐに鈍器で殴られる音が聞こえた。
「?!」
「ママ‥、今の音、なに?」
父が頭から血を流してこちらを振り返った。
「に‥にげ‥ろ!」
幼いわたしは何があったのかわからなかった。母はなんとか事態を把握し、電話をかけていた。あの時はわからなかったけど警察に電話していたのだと今ならわかる。
「美桜はここに隠れてなさい。ママとパパが名前を呼ぶまで出てきちゃダメだからね!」
母は空手を習っていて下りてきた男を対峙しようと思ったのだろう。私を押し入れの奥に隠し、父と男の方へ向かった。
わたしは震えながら隠れていた。大丈夫、ママとパパは強い。直ぐに名前を呼んで抱き締めてくれる。そう思いながら声が出そうになるのを必死に抑えた。