第20章 独占欲と執着
朝のオフィスは、いつもより静かに感じた。
人の話し声、電話の音、パソコンのタイピング音。
どれもいつも通りなのに、女の中には熱の名残が残っていた。
昨夜、伏黒甚爾の腕の中で繰り返された行為。
心も体もすっかり支配され、まだ腰の奥が微かに痺れているような感覚。
――それを悟にも悠仁にも、絶対に悟られてはいけない。
そう決めて彼女は早めに出社し、2人と距離を取るように心がけていた。
──視線を合わせない。
話しかけない。
何より、思い出さない。
なのに――
悟「おっはよ〜、冷たくない?」
聞き慣れた声が、背後から滑り込むように耳元に落ちてきた。
わざと声を潜めた、低く甘い五条悟の声。
思わず肩が跳ねた。
「……おはようございます。今、ちょっと忙しいので。」
振り返らずにそう答え、手元の資料をめくる。
が、次の瞬間その手元の資料がすっと視界から消えた。
悟が、彼女のデスクに手をついて覗き込んでいた。
悟「ふーん?俺のこと避けてない? 昨日の飲み会までは、ちゃんと目見て笑ってくれてたのにさ。」
耳元に吹きかけるように囁かれ、鼓膜がぞわりと震える。
悟の笑みはいつも通り緩やかだが、目が笑っていなかった。
まるで全てお見通しだと言わんばかりの鋭さで、女の表情を観察してくる。
返答に詰まっていると、もう1つの影が近づいてくる。
悠「……なんかさ、俺も思ってたんだけど。今日、めっちゃよそよそしくない?」
明るい声とは裏腹に虎杖悠仁の視線もまた、じっと彼女の顔を見つめている。
普段は人懐こい笑みを浮かべる彼だが今日はどこか、探るような目つきだった。
悠「ちょっとくらい体調悪くても言えよ、俺たち、そういうの気にする方だろ?」
「……なんでもないから。ほんとに、ちょっと寝不足なだけ。」
口から出たのは、浅い言い訳だった。
けれど、それはかえって彼らの疑念を濃くするだけの結果だった。
悟「ふぅん、寝不足? ……それって、誰と過ごして寝不足になったんだろうね?」
悟が身を屈め、女の耳元にぴたりと唇を寄せて囁いた。
その声音には、微かに嫉妬が滲んでいるようにも聞こえる。
心臓が跳ねる。
悟と悠仁のふたりが、自分の背後を塞ぐように立っているのがわかった。
視線を合わせないようにしているのに、肌に焼きつくような熱を感じる。
