第1章 深いキス
ライブハウスの熱気から逃れるように、みそらは米津さんの隣で非常階段に座り込んでいた。アンコールを終えたばかりの米津さんの額には汗が光り、興奮が冷めやらぬ瞳がみそらを捉える。
「今日もお疲れ様、玄師さん。最高のライブだったよ」
みそらが素直な気持ちを伝えると、米津さんはふっと笑って、ごつごつした指でみそらの頬をなぞった。その指先から伝わる熱に、みそらの心臓が跳ねる。
「ありがとう。でも、一番見ててほしかったのは、君なんだ」
囁くような米津さんの声に、みそらは思わず息を呑む。彼の瞳が、真っ直ぐにみそらを射抜く。まるで、彼の音楽のように、深く、そして抗えない引力を持っていた。
「ねぇ、みそら」
米津さんの手が、みそらの髪をそっと撫でた。そのまま指が絡まるように、彼の顔がゆっくりと近づいてくる。鼓動が耳の奥でうるさく鳴り響き、みそらはただ彼の動きを見つめることしかできなかった。
彼の吐息が、みそらの唇にかかる。甘く、少しだけ湿ったその息遣いに、全身の感覚が研ぎ澄まされていく。そして、柔らかい唇が、みそらの唇にそっと触れた。
最初は探るような、優しいキスだった。しかし、すぐに米津さんの舌が、みそらの唇をなぞり、開くように促す。みそらが戸惑いながらも応じると、彼は待っていたかのように、深く、深く、みそらの口内へと侵入してきた。
熱い舌が絡み合い、甘い唾液が混じり合う。息をするのも忘れるほどの、長く、激しいキス。彼の腕がみそらの腰に回され、ぐっと引き寄せられる。密着した体温が、互いの存在をより鮮明に意識させた。
米津さんのキスの合間に、小さな、しかし熱のこもった吐息が漏れる。「みそら…」その声は、掠れていて、情熱に満ちていた。
理性が溶けていくような、そんな感覚。このまま、どこまでも溺れてしまいそうだと、みそらは思った。唇が離れた時、二人の間には、濡れた音と、熱い吐息だけが残った。
「…好きだよ、みそら」
米津さんの囁きが、みそらの耳元で響く。その言葉に、みそらの頬は熱くなり、心は幸福感で満たされた。彼の視線を受け止めると、みそらは小さく頷いた。
「私も、好き…玄師さん」
夜風が、二人の熱くなった体をそっと撫でていく。ディープキスが残した余韻は、いつまでもみそらの心を震わせ続けていた。