第8章 少女漫画に憧れる準幹部様【番外編】
「今度は逆壁ドンしてもいいですか!?私がご主人を壁にドンって!!」
「誰がされるか!!」
「じゃあ逆股ドンで、私が膝を!」
「近寄んな!!」
中也は必死に距離を取ろうと後ずさる。
しかし美鈴がハイハイで追いかけてくる。
「ご主人が逃げても無駄です!壁がある限り、壁ドンは無限に可能!」
「理屈がおかしいだろ!!」
美鈴は机の下に潜り込んだかと思うと、中也の脚にしがみついた。
「はぁ、はぁ……ご主人のズボンのシワまで尊い!」
「もうやめろ、クビにすんぞお前!!」
「クビにされても私は壁ドンの亡霊になりますからね!ポートマフィアの壁からずっと見守ります!」
「出るな!!何も見守るな!!」
扉の向こうからは、美鈴の狂ったようなうっとり声と、中也の叫び声が漏れ聞こえる。
「誰か助けろォォ!!誰でもいいから!!」
「次は手錠ドン……縄ドン……逆お姫様抱っこドンもいいですね」
「……何やってんですか、美鈴様」
執務室のドアが乱暴に蹴り開けられ、梨鈴が無表情で立っていた。
冷たい目で美鈴と中也を交互に見下ろす。
「り、梨鈴!ちょうどいい所に!!助けろ!」
中也が涙目で手を伸ばす。
「すみません中也様、うちの変態がご迷惑を」
「変態って……失礼ね!梨鈴!!」
「少し黙っててください」
梨鈴は無言で美鈴の頭をゴンと小突いた。
「うぅ!痛い!!」
梨鈴は素早く美鈴の腕を後ろで掴み、脱出不能の拘束技をかけた。
「やめて〜〜まだやりたいことがぁ!」
「構成員の前だと冷徹になったり、パワハラ発言したりするのに何故私と中也様、風花様の前だけこうなるんですか」
「愛と鞭?ギャップ萌ってやつよ!」
美鈴はウインクするが梨鈴は無表情のまま眉ひとつ動かさない。
「分かりました。もういいです」
梨鈴は片手で美鈴の口を塞ぎながら、ずるずると後ろへ引きずる。
「いやぁぁぁっ!私は壁ドンの妖精に−−−」
梨鈴が全力で閉めた扉の向こうで、美鈴の妄言は徐々に遠ざかっていった。
「はぁ……助かった」
中也の机の上には、次に再現される予定の少女漫画の山が積まれていた。