第4章 青の時代 〜忘れられないあの日の思い出 𝓟𝓪𝓻𝓽3〜
白い蛍光灯の下、薬品の匂いが微かに漂うポートマフィアの医務室。
パチッと目を開けた美鈴は、硬いベッドの上で身を起こした。
「……ん……ここ?」
(そっか、私‥‥気絶しちゃったんだ)
「よう、起きたか。」
隣に腰掛けていた中也が帽子をくいっと持ち上げ、気だるそうに声をかける。
「ご、ご主人……!」
美鈴は一気に目が覚めて、中也にすがりつきそうになるが、中也は無言で額を人差し指でつついて止めた。
「……まだ傷が開くだろうが、立てるか?」
「はい!」
医務室を出ると、黒服の構成員が無言で美鈴を挟み込むように立ち、無言のまま歩き出す。
「何ですか、護送?」
「首領の執務室に連れて行く……黙っとけ。」
「えぇぇぇぇ!」
数分後、重厚なドアがきぃと開く。
金色の装飾が施された執務室、書棚の奥に、赤い椅子に腰掛ける男−−−ポートマフィアの首領、森鴎外。
森は美鈴を見て口元を笑みで曲げた。
「やあ、目を覚ましたかい?東雲美鈴君」
「はい」
美鈴は背筋を正し、隣の中也を横目で何度もチラチラ見る。
「さて、中也君から今回の件に関して全部聞いたよ、それを踏まえて単刀直入に言おう。君のような面白い子が我がポートマフィアに入る気はないかな?」
森が無駄に優雅な手振りで微笑むと、美鈴は即座にぴょこんと背筋を伸ばして叫んだ。
「入ります!!入れてください!!!」
「即答かよ!?」
中也がツッコミを入れ、森の目が愉快そうに丸くなる。
「理由を聞いてもいいかな?」
美鈴は真顔で、でも顔はちょっと赤くして、中也をガン見した。
「ご主人と!ずっと一緒にいたいからです!!」
執務室の空気が一瞬だけ凍り、中也が盛大に咳払いをした。
「そうだ、此奴こういう奴だった!」
中也は深い溜息をしているが森は嬉しそうに書類をトントンと揃えた。
「いやぁ、理由が実にいいね。純愛だ」
「……違ぇだろ」
美鈴はきらきらした目で森にぺこりと頭を下げた。
「よろしくお願いします!ご主人の隣にずっといます!!」
「……中也君、大変だねぇ」
「……地獄ですよ、これ」
執務室に妙な笑い声が混ざり、マフィアの闇にまた一つ、小さな騒動の種が転がり込んだのだった。