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魔王之死刀

第12章 ・克己(注…R18)


 ゾロは画面の端に映る選手の名前と背番号を確認すると、ゆっくりと立ち上がった。
 バスルームの扉を開け、シャワーの水を出す。
 掌で温度を確かめると、そのまま頭から浴びた。
 熱い湯が髪を伝い、肩を滑り落ちて行く。
 備え付けのシャンプーを手に取り、手早く頭を洗い、顔も体も纏めて洗い流した。
 入浴は週に一度だけ……だが、トレーニングの後にシャワーを浴びるのは、もう習慣になっていた。
 二年前、仲間に『汗臭い』と文句を言われたのが切っ掛けだった。
 最初は渋々だったが、今ではそれが当たり前になっている。
 髪と体をざっと拭き、腰にバスタオルを巻いたまま冷蔵庫を開けた。
 缶ビールを一本取り出し、プルタブを開ける。
 炭酸が勢い良く抜ける音と、静かな泡の音が耳に届いた。
 ソファに腰を下ろすと同時に、後半戦開始のホイッスルが鳴った。
 ゾロは缶を片手に、あの闘志溢れる選手に目を留める。
 背番号は『22』……ポジションはフォワード。
 ゾロは観察力や洞察力に長けている男である。
 試合を観ているうちに、ルールも少しずつ判って来た。
 ギターにしてもサッカーにしても、今まで興味すら持たなかったものに、今は不思議と心惹かれている。
 そんな自分が、妙に可笑しかった。

「……ロキの言う通り、おれはトウキョウって街に、何かを変えられたのかも知れねえな……」

 独りポツリと呟いて、ゾロは思わず苦笑する。
 少し蒸し暑いトウキョウの夜。
 窓の外から聞こえるのは、街中の夜道を走る車の音だけ。
 冷房から流れる僅かな風を感じながら、ゾロはソファーの背もたれに身を預け、試合に集中している。
 缶ビールは、何時の間にか空になっていた。
 飲み干した缶に視線を落とし、静かに息を吐く。

(……もう一缶、開けるか……)

 試合終了迄、残り十五分。
 その時、ふと、柔らかな香りが部屋に流れ込んだ。
 開けた覚えのない窓から、甘い花の様な匂い。
 そして……部屋の片隅で、何者かの気配が揺れる。

「……おい。勝手に入って来んじゃねえよ……」

 低く呟いた声に、柔らかな、しかし何処か寂しげな笑い声が返って来た。
 ゾロが窓際に視線をやると、背中に小さな黒い羽、その尻に細く黒い尻尾を持つ淫魔族……リリムが立っていた。
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