第12章 あの日の夜に、心が還る
何度目の挑戦だっただろう。
ふらついた足を踏みしめて、私はまた視線を前へ向けた。
深く、深く息を吸い込む。
頭の中には、たった一つの映像を描く──
“あそこに立つわたし”。
心の奥から、強く願う。
『行きたい、ここじゃない……あそこに、届けて……!』
瞬間、ぐん、と重力がねじれたような感覚がした。
目の前の空気が、きらりと歪んで──
次の瞬間。
『──っ!?』
気づけば私は、ほんの一歩、いや半歩だけ、元いた場所よりも先に進んでいた。
目標の白い円までは、まだ距離がある。
でも、それでも──
『いま、少しだけ……動いた、よね?』
驚きと、嬉しさと、信じられない気持ちが胸にあふれて、
私はその場で小さく膝をついた。
そのときだった。
「やっぱり、お前はすげぇな…」
静かな声がして、振り返る。
そこにいたのは、焦凍だった。
木陰に立って、いつからいたのかは分からない。
でもその瞳はまっすぐに、私の方を見ていて──
どこか、ほんの少しだけ柔らかい。
『……見てたの?』
「あぁ。 …少し前からな」
たったそれだけの言葉が、
すごく深く、胸に染み込んだ。
わたし、ちゃんと……前に進めたんだ。
『……ありがとう。焦凍に見られてたなら、もうちょっとちゃんと決めたかったな』
「今ので十分だ。 ……俺には、ちゃんと伝わった」
少しだけ笑った彼の表情に、胸の奥がふわっとあたたかくなった。
少しだけ届いた願いと、誰かに見守られていた幸せ。
それが、何よりの力になる気がした。