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ラストラインを越えて

第25章 高鳴り


息を吸い込むたびに喉の奥で熱が渦巻いて、ちゃんと肺に入っていっているような気がしなかった。
踏み込みに力が入らない。
もうこれ以上、速度を上げられる余裕がない。
『(……また、去年の二の舞になるの?)』
坂で消耗し、最後の直線で躍進できずに終わる。
雨の稍重とはいえ同じような結果を残すことになる。
『(イヤだ……トレーナーを退屈させないって決めたのに。シニア級もあと半年しかないのに、いつまでも、こんなとこで……)』
悔しい。
1着に届かないどころか神座の作戦すら反映できていない。
持ち前の粘り強さは?
ダート仕込みのスタミナは?
熱心に積み上げてきたトレーニングは?
ここで自分の意思で沈んだら、何もかも意味がなくなる。
『(神座トレーナーが見てるんだ……やることは1つ!いつもみたいに最後まで全力で脚を動かせ!!)』
ホマレはほんの一瞬目を閉じ、息を入れ、それから強く見開いて目の前のウマ娘たちの背中を捉えた。
『はああ……ッ!!』
ホマレが地を蹴った瞬間、世界が一瞬だけ無音になった。
雨の粒が頬に当たる感覚さえ遠くに霞んでいく。
ピッチでもストライドでもなく、ただ前へ。
自分でも掴めないリズムで脚が勝手に動いていた。
心音が早く強くなって、身体全体に響き渡るように脈を打つ。
『(……体が熱い。もっと風を感じたい)』
自然と踏み込む脚の力が強くなり、段々と伸びが大きくなっていく。
泥が跳ね上がり、滑る。
それでも止まらない。
力任せに踏み込むたび、体勢がわずかに揺らぐ。
だけど、それが今は心地よかった。
『(大丈夫……!このままいける!)』
目の前の2人が視界の中で重なる。
1人の脚がもつれ外にヨレた、そのわずかな隙間に身体を滑り込ませる。
雨に濡れた前髪の隙間から、ぼやけたゴール板が見えた。
心臓が爆ぜるように跳ねる。
『(届く、届くっ……!)』
先頭のウマ娘との距離は触れられる程に近い。
ほんの半バ身。
その差を詰めきれないまま、ゴール板を通り過ぎた。
世界が一気に音を取り戻す。雨の音、足音、歓声がいっぺんに押し寄せた。
荒い呼吸の合間に、ホマレは前を行く背中を見つめる。
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