第5章 忘れられない人
トレーニングを終え、シャワーを浴びた潔が、自分のロッカーの前に立つ。
扉を開けて──ほんの一瞬、手が止まった。
潔(……まただ)
洗濯済みのTシャツのたたみ方。
水筒のキャップの向き。
自分しか触れないはずの場所に、ほんのわずかな“ズレ”がある。
潔(この前の、気のせいじゃなかったんだ)
ほんの数日前にも、確かにこう思った。
そして、あのとき千切も同じように「おかしい」と言っていた。
そのとき、奥からバスタオルを肩にかけた千切が歩いてきて、潔の前で足を止める。
千「……潔も、また?」
潔「ああ。お前もか」
千「うん。靴下の位置、微妙にズレてた。俺、左右で畳み方変えてるからすぐ分かるんだよ」
潔「水筒のキャップの向きまで変わってた。いくら几帳面な清掃でも、そこまで触るか?」
千切はロッカーの扉に手を添えて、静かに目を伏せた。
千「……一回なら、偶然って思えた。でも二回目となると……ちょっと、気持ち悪いよな」
潔「ああ。特に、物がなくなってるわけじゃないってのが逆に怖い」
千「荒らすって感じじゃないんだよな。ちゃんと“直された”みたいな……」
潔は黙ったまま、ロッカーの中を見つめる。
整然としているのに、そこにあるのは明確な違和感。
潔(“気づかれずに開けている”。まるで……“誰かの癖”か、“確認”でもしてるみたいだ)
そのとき、ふと千切が何かを思い出したように口を開いた。