第28章 「善意の逆理 Ⅰ**」
パトカーの赤色灯の光が、暗い河原をチカチカと不気味に照らしている。
遠くで鳴いている秋の虫の音も、パトカーの無線にかき消されていた。
「ここから先は関係者以外立ち入り禁止で――」
黄色い規制線の前で、制服姿の警察官が険しい顔で私たちの前に立ち塞がった。
思わず隣を歩く先生を見る。
けれど先生は、まったく気に留めていない様子だった。
「ちょっと、聞いてますか!?」
警察官が声を荒らげる。
その声に反応したように、規制線の内側からくたびれたスーツ姿の刑事が足早に近づいてきた。
「おい、やめろ」
刑事さんは先生の顔を見ると、警察官の肩を軽く叩いた。
「この人たちはいいんだ。通してやってくれ」
「……は、はい。わかりました」
刑事さんが、キープアウトの黄色いテープを持ち上げてくれる。
先生は「どーも」と短く返して、その下をくぐった。
私もぺこりと頭を下げて、先生の背中を追いかける。
足場の悪い河原を少し進んだ先に、ブルーシートで四角く囲われた一角があった。
周囲が暗いぶん、そこだけ強い照明に照らされて、異様なほど明るく浮かび上がっている。
そこには、すでに見慣れた顔が揃っていた。
「お疲れー。状況は?」
先生が声をかけると、七海さんが気難しそうな顔をしながら振り向いた。
その隣には、タブレットを抱えた伊地知さん。
今にも倒れそうなくらい顔色が悪い。
「遅いですよ、五条さん」
「七海、これでも僕たち、なるはやで来たんだよ。ね、?」
「あ……え、ええと……」
急に話を振られて、言葉がつかえる。
ついさっきまでのことが頭をよぎって、顔がじわっと熱くなった。
伊地知さんから電話があったあと、先生が「しばらくできないかも」と当然みたいにもう一回戦始まってしまって。
急いできたとは、ちょっと言いづらい。
その時、ブルーシートの隙間から、硝子さんが手袋を外しながら出てきた。
私の顔を見て、次に先生を見る。
そして、何かを察したみたいに半眼になった。
「どうせ、二人で直前までベッドにいたんだろ」
「硝子、人聞き悪いなー。ベッドじゃないよ、執務室のソファ」
(先生!? 自分からばらしてどうするの!)
先生を睨みつけると、硝子さんが鼻で笑った。