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【呪術廻戦/五条悟R18】魔女は花冠を抱いて眠る

第6章 「月夜、心を濡らす」


***


任務を終えて高専の門をくぐると、夜気の冷たさが肌に刺さる。

五条は肩を回し、わざとらしく大きな欠伸をひとつ。



「……やれやれ。面倒な一日だったな」



そう呟いて、自分をごまかすように首をすくめる。
けれど歩き出した足は、妙に重かった。


気づけば、ポケットに入れた手がぎゅっと拳を握っている。


(……)


名を呼ぶように、思考がふとそこへ向かう。
あの震える声、潤んだ目――



“私は……先生が――”



……その先を、五条は聞けなかった。


(知りたい、なんて思っちゃいけないのに)


でも、心のどこかが、かすかに疼いていた。



その疼きを断ち切るように――



「五条さん!」



鋭い声が響き、伊地知が駆け寄ってきた。
額には汗がにじんでいる。



「なに? 僕、任務帰りで疲れてんだけど?」



わざと気怠げに言いながらも、五条の足は止まる。
伊地知の顔には、焦りと緊張が色濃く滲んでいた。



「……が、楽巌寺学長が、来られています」

「え? もしかして京都から徘徊して、東京まで来ちゃったの?」



皮肉を交えて返したその瞬間――
伊地知の顔が、さらに険しくなる。



「……そんな冗談を言ってる場合じゃありませんよ」



その言葉の硬さが、ただ事ではない空気を伝えていた。



「査問会議です!」

「……は?」



五条の目が細められる。
口元からは笑みが消え、足がぴたりと止まった。



「誰の? まさか、また悠仁? それはとっくに決着したはずだろ。おじいちゃん、とうとうボケちゃったの?」



伊地知は、息を呑むように一瞬だけ言い淀んでから――言った。



「違います……対象は――さんです」



五条の空気が変わる。



「おそらく……悠蓮の件が上に漏れたかと……」



夜の風が、彼の白髪をなぶる。


しばし無言のまま、五条は空を仰ぎ――
闇に浮かぶ月を、目隠し越しにじっと見上げた。



「……今日は一段と綺麗だね」



吐き捨てるようなその声に、笑みはなかった。


そして次の瞬間――風が止んだ。
静寂が、嵐の幕開けを告げる。
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