第21章 「可惜夜に眠る 前編**」
「付き合ってられるか。おい、帰るぞ」
真希さんが、担いでいた竹刀袋を持ち直して踵を返した。
その声は本気で冷え切っている。
「しゃけ!」
「私も帰る! もう銀座で買い物して帰る!」
「俺もビーチバレーできないなら、帰るわ」
真希さんの号令に、全員が即座に頷いた。
民族大移動のごとく、みんながゾロゾロと出口へ向かい始める。
(えっ……ほんとに帰るの!?)
「み、みんな……! せっかく来たのに……!」
「も帰るわよ! こんなとこいたらカビ生えるわ!」
野薔薇ちゃんが私の腕を引く。
「で、でも……っ」
私は、みんなの背中と先生を交互に見た。
どうしよう。
このままじゃ合宿が解散になっちゃう。
だけど、どうしたらこの空気を変えられるのか分からなくて。
迷ってるうちに、みんなの足音はどんどん遠ざかっていく。
「あーあ」
先生は、わざとらしいほど大きなため息をついて、空を仰いだ。
「残念だなぁ。掃除さえ終われば、この後は『うちの別荘』で豪華バーベキューだったのになぁ~」
――ピタリ。
玄関を出ようとしていた全員の足が、魔法にかかったみたいに止まった。
「……今、なんて?」
野薔薇ちゃんが、ゆっくりと振り返る。
先生はニヤリと口角を上げて、続けた。
「向こうの別荘にはね、ビーチもあるし……」
「専用シェフが焼く、A5ランクの黒毛和牛も用意してあるし……」
「そうそう、キンキンに冷えた高級メロンもあるんだけどなぁ~」
「あーあ、帰っちゃうなら仕方ないねー。僕ひとりで食べるかー」
ゴクリ、と誰かが生唾を飲み込む音が、静まり返ったボロ宿に響いた。
「……く、黒毛和牛……」
「……メロン……」
野薔薇ちゃんと虎杖くんの目が、獲物を狙う猛獣のようにギラギラと輝き始める。
先生はさらに畳み掛けるように、私のほうを見て言った。