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【呪術廻戦/五条悟R18】魔女は花冠を抱いて眠る

第6章 「月夜、心を濡らす」


校舎の灯りが落ち、夜の静けさが高専を覆っていた。
廊下の奥、ひとつだけ規則正しい足音が響く。


五条悟の足は、迷いなく校舎内の資料室へと向かっていた。



静かに扉を開くと、蛍光灯の光に照らされた室内に、先客の姿があった。
伊地知が記録端末と書類を手に、こちらへ視線を向ける。



「……伊地知、悪いけど調べてほしい名前がある」



その声色に、伊地知の表情が一瞬で引き締まった。
いつもの軽薄さの影は微塵もない――そう悟ったのだ。



「はい。どなたの?」

「“悠蓮”。漢字は“悠久の悠”に“蓮の花”の蓮。読みは“ゆうれん”」

「古風な字面ですね。呪術師名簿で見かけた覚えはありませんが……」



伊地知が言いかけると、五条は資料棚を指で軽く叩いた。



「――いいから全部あたって。古いものも、封印扱いのものもね。高専にあるもの、全部」



伊地知は慌てて端末を抱え直し、深く一礼する。



「……わかりました。至急照会します」



そう告げると、足早に部屋を出ていった。


残された室内は、蛍光灯の明かりと紙の匂いだけが満ちる。


五条は大きく息を吐き、近くの椅子に腰を下ろした。
サングラスの奥で瞳を閉じ、背もたれに頭を預ける。


(……悠蓮)


あの翠色の瞳。


(あれが……彼女の中にいる“何か”か)


もしそうなら、悠蓮は何者だ?
呪霊か、怨霊か、それとも――。
なぜの中にいて、何を目的としている?


答えのない問いが、次々と胸の奥を叩く。
五条は落ち着かぬ手で、指先を膝に軽く打ちつけた。


そして――あの瞬間が蘇る。


(……さすがにまずいよなー。生徒にキスなんて)


五条は額をかすかに押さえ、苦笑をこぼす。


柔らかな唇の感触。
近くで震えていた吐息。
怯えと熱が入り混じった、あの目。

脳裏に焼きついて離れない。
軽い衝動じゃない。
あの時、自分は確かにという存在を“選んで”触れた。


五条は天井を仰ぎ、深く息を吐いた。


――まったく。
自分でも、理由の説明がつかない。


それでも、彼女から目を逸らすことだけはできなかった。
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