第20章 「君の心をさらったその日から**」
プルルルル……
おばあちゃんのスマホが震えた。
画面を覗いたおばあちゃんの顔がぱっと明るくなった。
「――あっ、さっちゃーん!」
「え、大丈夫よー! うんうん、ほんと、大丈夫だから!」
「ちょっと打っただけだってば~。ありがとねぇ、心配してくれて!」
スマホを肩と頬で挟んで、おばあちゃんは残りのお煎餅を袋に戻し始めた。
私もそれを見て、小さく息をついて立ち上がった。
空になった湯呑みを手に取って、キッチンへ向かう。
(……あれだけ元気なら、心配する必要なかったかも)
湯呑みを流しに置いてリビングへ戻ると、
テーブルの上に置かれた、例のアレが目に入った。
(……こんなとこ置いとけないし)
私はそれをさっと手に取り、スカートのポケットに押し込んだ。
(確かに、いつも先生が準備してくれてるけど)
ポケットに押し込んだそれの感触が、妙に気になってしまう。
(……私も、持ってた方がいいのかな)
先生だって、いつも持ってるわけじゃないだろうし……
(……で、でもっ。私がこれ持ってたら)
(や、やる気満々とか思われたり……!?)
(……うぅ、なんで私、こんなことで……!!)
ぶんぶん、と小さく首を振った。
(……落ち着け、私)
深呼吸をひとつして、私はようやくソファに腰を下ろした――。
「あ、~!」
玄関からおばあちゃんの声が飛んできた。
「さっちゃんがね、桃くれるって!」
「えっ?」
「ちょっと行ってくるねー!」
「まっ……待って、おばあちゃん、それなら私が――」
言いかけたときにはもう、玄関のドアがパタンと音を立てて閉まっていた。
「……行っちゃった……」
今日は、大人しくするって言ってなかったっけ?
私は引き止めようとした手を伸ばしかけたまま、盛大にため息をついた。
(ほんと似てる)
頭に先生の顔が浮かぶ。
こっちが止める暇もなく動いて、困らせて、
でも、なんだかんだで全部持っていってしまう人。
でも、そういうところが――
(……たぶん、好きなんだろうな)
私は洗い物をするため、またキッチンへ戻った。