第20章 「君の心をさらったその日から**」
硝子さんはモニターに“切除された白い花”の経過写真が映し出した。
花弁はすでに縁が茶色く枯れ始めていて、花の芯からは黒ずんだ液体のようなものが滲んでいた。
「花も遺体も、まるで時間が一気に動き出したみたいに崩れていった」
種子みたいなものが原因で、身体の中で発芽して、死んでから花が咲く――
そこまでは、形になってきた。
でも。
分からないことのほうが、ずっと多い。
(……時間が動き出す、って……)
(あ、そういえば……)
ふと空港で先生の話を思い出した。
「先生。……呪詛師の方は、“死んですぐに花が咲いた”って、言ってましたよね」
「花が咲くスピードが違った理由って何なんでしょうか……?」
「ああ、それは、あいつが呪詛師だからだよ」
呪詛師だから……?
どういうことだろう。
首を傾げると、先生が人差し指を立てながら説明した。
「後悔、絶望、執着、憎悪、嫉妬エトセトラ。そういう負の感情が死の間際に強く生まれたとき、花は咲く」
先生は言葉を選ぶように続けた。
「呪術師――まあ、呪詛師も含めて、非術師より呪力が体の中をよく巡ってる。だから、花が咲くのが早かった」
「そう考えると、咲くスピードに差が出たのも納得いくでしょ」
硝子さんが腕を組みながら、呟いた。
「熊本の遺体は、若いうちに末期癌で亡くなってる」
「治療も限界、予後も短い。自分の死を理解した状態で、時間だけが過ぎていく」
「……死に際に負の感情が爆発しても、おかしくはないな」
先生は後頭部をかきながら、少し声を荒げる。
「でも、結局さ。花が咲いたからなんだっていう話なんだよね。……まだピースが足りない」
すると、硝子さんが何かを思い出したように席を立った。
引き出しから、ガラスケースを取り出す。
「そうだ。これも、見せておこうと思ってたんだった」
ケースの中に収められていたのは、鮮やかな赤い花――アネモネ。
私が触れた時に、悠蓮の記憶が流れてきたあの花。
「枯れない理由は、術式でもなんでもない」
硝子さんは、アネモネをケースから取り出した。