第17章 「花は蒼に濡れる**」
しばらくして、先生がゆっくりと顔を上げる。
髪が額に張りついていて、頬には微かに紅が差していた。
そのまま、何も言わずに唇が私の額に、頬に、そっと触れて、最後に唇同士が重なった。
優しい、優しいキスだった。
「……最初はさ、優しくするつもりだったんだけどね?」
そう言いながら、私の頬に触れた指先が、やわらかく撫でるように動く。
「が可愛すぎて、無理だった」
その声には、後悔なんて欠片もない。
あるのはただ私への熱と欲と、
まるで手に入れたものを誇らしげに見つめるような、そんな視線だけだった。
(……最初は壊れるかもって、怖かったけど――)
私は先生の手のひらに自分の頬をすり寄せて、
「……その……気持ちよくて、なんか……どうにかなっちゃいそうで……」
「わたし、変じゃ……なかったですか?」
その言葉に先生の目が少し見開かれて、口元に笑みが浮かぶ。
「の全部がえっちで可愛かった」
「……僕のことしか考えられなくなってたでしょ?」
図星すぎて、言い返せない。
「~~……っ!」
私は恥ずかしさのあまり、思わず先生の胸に顔を埋めると、
背中に腕が回ってきてやわらかく包まれる。
私もぎゅっと力をこめて抱きしめた。
ぬくもりが肌を越えて心の奥まで染み込んでいく。
(先生と初めて結ばれた……)
そのことがただ、嬉しくて。
あたたかくて、泣きたくなるほど満たされていて。
先生の胸に耳をあてる。
とくん、とくん――
重なる鼓動が静かに、優しく響いていた。
窓の外では、夜がゆっくりと満ちていく。
私の中でまたひとつ花が咲いた気がした。
その花は蒼い夜に静かに濡れて、二人だけの世界に息づいている。
やっと巡り着いたこの夜がふたりのはじまりになる――
そう思った瞬間、先生の指が髪を撫で、あたたかい息が額に触れた。
私はもう一度、先生の胸に顔をうずめた。