第16章 「心のままに、花が咲くとき」
(……、さっきは“先生のことは、そういうんじゃない”って言ってたけど)
前にすれ違ったとき、見かけたことがある。
先生の声に反応して、が顔を向けた瞬間。
ほんの少し、頬が赤くなってた。
目もちょっとだけうれしそうだった。
思い返せば自分の中で既に“付き合ってそうランキング1位”だったが、実際に現場を見てしまうとダメージの種類が違う。
別に、に対して特別な感情があるとかじゃない。
あいつのことは、仲間として信頼してるし、頑張ってるのも見てきた。
それだけだ。
……たぶん。
それでも、なんだか胸のあたりがざらつくのは――
きっと、あのバカ教師のあまりに堂々とした「勝者ムーブ」のせいだ。
(と今後、どんな顔して会えばいいんだ……)
頭を押さえながら、思わず呟きそうになる。
自販機の前で止まり、買ったばかりの冷たい缶コーヒーを額に押し当てる。
「おーい、伏黒ー!」
少し離れたところから、虎杖の声が響く。
「、俺のスマホ病室にあったって言ってた?」
その“病室”とは、今まさにあの担任教師と同級生が甘くてえっちな世界線を展開している現場である。
伏黒は、ピクリと片眉を動かした。
(……そうだ。俺はこいつが“スマホ忘れたかも”って言ったから、代わりに戻ったんだ)
「……いや、ないって」
「おっかしいな〜、でも忘れるならそこしかない気がすんだけど。俺、直接行って――」
「今は……やめとけ。迷惑だろうから」
「ええ!? なんでだよ、ただスマホ探しにいくだけだって」
伏黒はため息をつくと、
無言で虎杖の肩をつかみ、そのまま方向転換。
「帰るぞ」
「いや、俺のスマホ……」
「いいからっ」
「伏黒、どうしたっ?」
そのまま、二人の足音は病室から遠ざかっていった。
そしてその背後で、誰にも聞こえないほど小さく、
病室の中から、甘さを含んだ囁き声が漏れた気がした。
「……キスだけでふやけちゃって」
「ほんと、可愛すぎ。自分でわかってる?」
「……せ、先生……んっ」
「もう、時間……だから……」
「……っ、ん……ぅ……」
「えー、あともう少し――」