第16章 「心のままに、花が咲くとき」

普段なら絶対に見せないはずの――
どこか、戸惑いと何かをこらえるような気配があった。
　


「……私、ちゃんとここにいますから」

　

そう言って、ぎゅっと先生の手を握る。


握っていた手が、微かに震えた気がした。
ちょっと言いすぎたかな、と不安になる。


けれど、先生がそっと手を握り返してくれた。
その温度が胸の奥に、じんわりと広がっていく。


（……気持ち、届いたかな）


それだけで、心がふっとほどけた気がした。

　

「……なに、ちょっといいこと言って満足げになってんの」

　

ぼそっと、先生が呟いたかと思えば――
ぴしっ、と軽く額を弾かれた。

　

「いった……！」



思わずおでこを押さえて、先生を見上げる。

　

「怪我して死にそうになってたくせに……」

　

そう言った先生は、なんだか耳までほんのり赤い気がする。

　
（……先生、照れてる？）


痛かったけど、うれしかった。
ほんの少しだけ、先生のために何かできた気がして。

　
突如、先生の手が私の頬をつかんだ。

　

「わっ、な、なに……っ」

　

両手で包み込むようにして、私の頬をむにむにと揉んでくる。

　

「……ふぇ、にゃにするんですか……！」

　

先生はまったく悪びれた様子もなく、にやりと笑った。

　

「にやけすぎ。……まぁ、でも」



そのまま頬に添えていた手が、するりと私の顔を包み――
額と額が、そっと、触れ合った。

　

「……ありがとう」

　

小さく、でも確かに囁かれたその声に、
胸の奥がきゅうっと締めつけられる。

　

「のそういうとこ、ほんと……ずるい」

「どんどん好きになる。……どうしてくれんの？」

　

低く甘く囁かれて、息が止まりそうになる。

　

「……っ、せ、んせ……」

　

視界が熱くなって、自分の鼓動がうるさいくらいに響いてる。
顔がきっと真っ赤になってるのがわかる。


それでも、私も言わなきゃ――そう思った。

　

「……わ、わたしも……」

　

声が震える。
けれど、止められなかった。