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【天は赤い河のほとり】短編集

第4章 ルサファ:01│雨が上がる時


【雨が上がる時】ドリームside
ルサファ:片想い│1/9P┃6500文字
ドリノベ様再投稿用変加筆済
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雨がたくさん降る日だった。

その日は朝からずっと降っていて夜になり激しさを増した雨が降り続いていた。

「今日は雨のせいで客足も少ないなぁ」

酒場のカウンターの中でお父さんがグラスを拭きながらそんなことをふいにぼやく。

「そうね」

わたしは店内のテーブルを拭く手を止めずに短く返答を返す。そうしてふといつもこのぐらいの時刻に来るお得意様の将校達を思う。

(今夜はさすがに来ないかな…)

キレイに着飾って仕事を待っている何人かのお姉さん達も『今夜は商売上がったり』と部屋に帰って行った。数人いたお客さんもわりと早めに引き上げてしまい、寂しくなった店内に雨音だけが響く。

「今夜はもう閉めようか」と言う父の言葉に片付けの手を早めていた時に、入り口の扉が音を立ててゆっくりと開いた。


「こんばんは、今夜は一人なんだけど今からイイかな?」

「あぁ。いらっしゃい。今だったらルサファさんの貸し切りだ。ゆっくりして行ってくれ」

父に了承の返事をもらってテーブルに着いた馴染みのお得意様ににこやかに薄布を差し出す。

「こんばんはいらっしゃいませ。このままじゃ冷えてしまうから、どうぞ使って下さい」

「あ、ありがとう。ドリーム」


笑顔で受け取ってくれた彼───ルサファさんはお酒を飲むだけでなく食事をしにもうちをよく使ってくれている。

今夜のような雨の日や遅い時間になった時にも気兼ねなく来てくれるのは、彼に会いたいわたしにとって嬉しいことだった。

食事をとる彼を気づかれないように見つめる。

(やっぱり素敵)


でも彼は第3皇子、カイル殿下の弓兵隊長。街の酒場の娘で一般人のわたしには到底手が届かない人。憧れに似ている気持ちは、こうやって彼の姿をかいま見れるだけで充分だった。

(住む世界が違うんだから好きになっちゃいけない。身分違いで叶わない恋をするほどにわたしは愚かでも無謀でもない。素敵な人とただ店員とお客様になれただけで満足満足)

そう、思ってた。


執筆日(15/11/28)
変加筆(24/03/10)
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