第14章 触れない距離
コチ…カチ…と時計の音が聞こえてくるくらいの静けさに、三蔵の時折めくる新聞の音がなぜかうとうととしてきた理世。
「…おい」
「え?あ、ごめん…!何?」
「眠いのか?」
「・・大丈夫。」
「…無理すんじゃねぇよ」
「…大丈夫!」
「いいか、大丈夫っていう奴ほど大丈夫じゃねぇんだよ。特にお前のはな。そこで寝てろ。昼食行くころには起こしてやる。」
「…でも…さっき食べたばっかだし」
「ぁあ?」
「太る」
「気にしてんのか」
「だって…」
「好きにしろ」
「…三蔵、しりとりしよ?」
「は?何言ってやがんだ」
「だってそうしたら寝なくてよさそうだし。」
「知らん。俺は眠くねぇ」
「付き合ってよぉ…」
「知るか」
そんな他愛のない、触れ合う事の一切ない時間も理世は久しぶりだった。
「…でも、なんか新鮮だな…」
「何がだ」
「こうして三蔵の事たくさんしれたり、いっぱい話せたり」
「いくらでも話せるだろうが」
「…それもそうなんだけど…」
「お前は、どうなんだ」
「へ?私?」
「あぁ。さっきお前は俺の事をしれてどうのと言っていたが、お前は俺に教える気はないのかって言ってんだ」
「…知ろうとしてくれてる…!」
「…無駄な時間だったな」
「そんなことない!えっとね、私の誕生日は七月三十日で、好きなものは甘いものと辛いものと、あとは……何がある?」
「いらん情報ばっかだな」
「ひどくない?」
「んな履歴書みたいな情報要らねぇよ」
「…履歴書って…」
くすくすと笑い合っている二人の光景を知っているのは明るく照らし陽だまりをくれるあたたかな日差しのみだった。