第29章 ハジメテの感覚
こうしながらも抱き潰されるように肌を重ねていく二人。いつしか理世は眠りについていた。そんな相手の前髪をそっとよけながらも悟浄はハイライトに火を点けた。
「…フーー…」
細く、そしてなるべく理世の方に煙が流れない様にと持ち手を変えて窓の外に目を向けた。
「…いつまでもって訳にはいかねぇよな…」
そう呟いたのと同時に理世は軽く身じろいだ。
「…ン…」
「あー、わりぃ…起こしちまったか?」
「ここ、禁煙」
「1本だけだ」
窓際に用意した灰皿に煙草を押し付け、理世に向き合った悟浄。
「…ごじょ…ぉ?」
「ん?」
「私…」
小さくうつ向いたままに理世は悟浄の腰に巻き付いた。
「…どうかしたか?」
「ッッ」
少し俯きながらも理世は悟浄の肌にすり寄る様に離れようとはしなかった。
「…理世、どうかしたか?」
「さっき…ッッ…悟浄が居なくなるって…」
「言ってねぇけど?」
「…ちが…ッッ…そうじゃなくて…」
いまいち状況が解らない悟浄。しかし今にも泣きそうな理世の顔を見れば『何か』きっかけがあった事位は簡単に解った。
「…どうした、ん?」
「夢、だったのかな…」
「何がよ」
「悟浄が…離れてくの…どんどん…待ってって…行ったのにいなくなって、他の子と、振り向いてすらくれなくて…」
「…夢だな、そりゃ」
そう言いながらも悟浄は優しく抱きしめた。その腕に縋りつくかの様に理世は巻き付いた。
「理世?俺は理世を捨てるつもりもねぇし、おいていく気もねぇ。そんな心配は必要ねぇよ」
「…でも…私…ずっと一緒に居られる保証もない…」
「…それはそうかもしれねぇな」
そう呟く様に悟浄も呟く声が酷く重たくのしかかっていく。