第7章 優しさ
夜道を歩き、俺の家まで向かっていた。
会話はない。
そりゃそうだ、共通の話題なんてないのだから。
と言うか喋りたくない。
互いに距離を取り、遠すぎず近すぎない距離を保っている。
家の屋根が見えてきた。
ここまでの道がとても長いように感じられたが、無事に辿り着けた。
何事もなく、無事に。
家の前で、俺は立ち止まる。
「俺んちここだから、送ってくれてどうもありがとうじゃあな」
早口にそう言ってドアノブに手をかけようとした時。
突然ドアが開いた。
「あれ、貴夜兄もう帰って来たの?」
現れたのは、貴文だった。
「ま、まぁな、色々あって…」
「そっかー…あれ、あの人誰?」
貴文が野木に視線を向ける。
「えっと…クラスメイト」
本当は紹介したくないが今は仕方ない。
「クラスメイト…送ってきてくれたんだ」
「まぁ、そんなとこ」
俺がそう言うと、貴文は少し前に出て野木にお辞儀した。
「貴夜兄の弟の貴文です。兄がお世話になってます」
母親か、とつっこみたくなったが言葉を飲み込んだ。
実際、世話になってしまったのだから。
野木は笑みを浮かべ軽く礼をした。
「どうも、野木隼人です。じゃあ俺はこれで」
よし、早く帰れ。
そんな俺の願いを打ち砕く様に、貴文は野木に向かって叫んだ。
「あの、もう夜遅いので、食べていきませんか?」