第11章 番外編【おばあさんの家】
「満員電車キツい…」
駅から出た俺は、重い足を引きずり歩く。
「大丈夫か、貴文」
心配そうに俺の顔を覗き込むのは兄の貴夜。
俺は心配かけまいと慌てて笑顔を作った。
「大丈夫!心配しないで!」
と言ってもかなりキツい。
俺は人一倍暑さに弱い体質だから、夏は嫌いだ。
逆に寒さには強いんだけどな。
「辛かったら言えよ、休憩入れるから」
優しい声色でそう言う貴夜兄。
あぁ、やっぱり貴夜兄天使だ。
兄弟皆貴夜兄大好きなんだよな。
本人はそんなこと気付いてないんだろうけど…。
「あぁ姫果、走ったらころ……あぁほら、言わんこっちゃない」
盛大に転んだ姫果を起き上がらせ、服等についた泥を落とす。
「うん、偉いぞ姫果。泣かなかったな」
そう言って貴夜兄は姫果の頭を撫でた。
いいな、俺も撫でられたい…って子どもか俺は。
それよりも、暑すぎる。
「貴文兄大丈夫?ふらふらしてる」
俺を純粋な目で見上げてくるのは妹の朝妃。
俺は「大丈夫」と言って笑ってみせた。
朝妃は平気そうで羨ましい。
確か朝妃、暑いのは大丈夫で、寒いのがダメだったような気がする。
あー、ダメだ、何も考えられなくなってきた。
「あ、皆、見えて来たよ。あの家だ」
貴夜兄の指差す方を見る。
昔ながらの家って感じだな。
でも、昔の家って結構涼しいんじゃなかったっけ。
とにかく、早く着きたい。
「あ、そう言えば、あの人ももうすぐ着く頃だよな…」
「どうした、貴文」
呟きを聞かれ、俺は慌てて首を振った。
「何でもないよ、気にしないで」
貴夜兄は不思議そうな顔をしたが、それ以上追求はしてこなかった。
このことは、ギリギリまで内緒にしておこう。