【第一章】世界の支配者篇 〜定められしサークリファイス〜
第9章 入社試験
「いや…でも…」
言いかけた敦は香織と目が合い、香織は首を横に振った。
敦も察したのかそれ以上は何も尋ねなかった。
「そういえば皆さんは、探偵社に入る前は何を?」
敦の質問にその場が静まり返る。
その沈黙を破ったのは太宰だった。
「何してたと思う?…‥なにね、定番なのだよ。新入りは先輩の前職を中てるのさ」
「はぁ……じゃあ…」
敦はチラリと谷崎と、ナオミを見た。
「谷崎さんと妹さんは……学生?」
「おっ、あたった。すごい」
「やるねぇ。じゃあ国木田君は?」
「止せ。俺の前職などどうでも…」
敦は少し悩んでお役人さん?と呟いた。
「惜しい!彼は元学校教諭だよ。数学の先生」
敦は納得の表情を浮かべた後に香織の方を見た。
「如月さんも谷崎さん達と歳が近い気がします。学生さんじゃないんですか?」
「‥‥敦君。私、22歳なんだ」
「へ?」
谷崎は『やっちゃったねー』と言う。
国木田は黙って眼鏡を直し、太宰はお腹を抱えて笑っていた。
「え!?でも、凄いお若くないですか!?」
「よく言われる。答え言っちゃうけど私に前職なんてものはないんだ。高校卒業してすぐ探偵社に入ったの」
「そうだったんですか‥‥」
「じゃあ私は?」
太宰が敦に聞く。
「太宰さんは‥‥」
「無駄だ小僧。武装探偵社七不思議の一つなのだ。こいつの前職は」
「最初に中てた人に賞金が有るんでしたっけ」
「そうなんだよ。誰もあてられなくて、懸賞金が膨れがってる」
お金の話がでると敦は恐る恐る金額を尋ねた。
「七十万だ」
その一言で敦の顔色は変わり、その後怒涛の応答が始まった。
しかし、どれも正解には届かなかった。
香織はアイスティーを飲みながら、その様子を見ていた。
「敦君。太宰君はこの件では嘘吐かないから、頑張ってみてね。じゃあね」
「なんだい?香織が帰るなら私も−−」
「太宰!お前はまだ仕事が残ってるだろ!」
「そうだよ、太宰君。私は今日、非番なの。それに今日は特別な日だから」
香織はそう言うと喫茶店を後にした。
「特別な日?」
香織の言葉に疑問を持った敦は言葉を溢す。
「嗚呼、そうか。今日は彩愛さん−−香織の母の命日だったね」
思い出したように太宰が言う。