【第一章】世界の支配者篇 〜定められしサークリファイス〜
第31章 Final Stage Ⅳ 〜絶望の先に咲く香りの花〜
「若姫の異能を塗り替えて別の異能にしようとしましたが若姫が異能を弾いたのです。『生と死』は完全に塗り替えることが出来なかった代償です。それでも、誰かを生き返らせるとか死なせるとかは出来ない、実質若姫の異能は無いに等しいので成功かと問われれば成功ですかね」
「そして、今日……若姫は『生きる白紙の文学書』として、自分に打ち勝ち、異能が覚醒したのです」
言葉に合わせ、胸元に手を当て、少し嬉しそうに瞳を細める。
「そんなこと……映像には……」
「ああ、未来予知と過去について見たことですか、あれは能力ではありません。適正率100%な故に私の記憶を見ているだけです」
「‥‥」
「理解出来ないのも仕方ありません。少し突拍子な話ですが若姫が見ていた未来や過去は前世での私の記憶。つまり、私は転生してこの世界に来たのです」
空を見上げるように瞳を遠くにやり、ゆっくりと片手を広げる。
「貴女の思考、人物像、過去‥‥これら全てが作者である私によって作られたものなのです」
「‥‥あなたは私の何?」
香織の声にアナスタシアは視線を戻し、微笑を深めて一歩近付く。
「折角選ばれた天才なのに、覚醒に喜ぶことが無いのですね。それともその価値観を理解してませんか?」
「強くなることは嬉しい。でも得体の知れない力に無知のまま取り込まれるのは嫌‥‥」
香織が視線を逸らすと、アナスタシアはふっと笑みを洩らす。
「賢いのですね、それとも一般人だった故かしら、大きなチャンスは恐怖に感じるものですからね」
「私はアナスタシア、気軽にナーシャともお呼びしてください。20代半頃の肉体を次世代の『賢者』を導くための依り代として今、こうして再臨した。これで分かるでしょうか?」
「『賢者』って‥‥」
小さく息を呑む香織に、アナスタシアは指先を立てて口元に当て、囁くように笑う。
「知っているでしょう?聖書に出てくる神に仕える者達です。ちなみに私は『四賢者』ですよ」
四賢者No.2・幻想を司る賢者
アナスタシア・ドストエフスカヤ・グラナート
異能力−−−夢の方舟
(『四賢者』、あれは架空の存在じゃなかったんだ)
香織の胸の奥で、小さな鼓動が早鐘を打つ。
アナスタシアが言っている聖書に香織は教会にいた時に読んだことがある。
