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【第一章】世界の支配者篇 〜定められしサークリファイス〜

第28章 Final Stage Ⅰ 〜空港バトル!東雲姉妹VS条野〜






「…………うん?」

暗がりの中、香織がゆっくりと目を開けた。
視界がぼやけ、天井の模様がゆっくりと輪郭を取り戻す。
こめかみの奥が鈍く痛む。
眉をしかめながら、香織は体を起こそうとする。

「目が覚めたようだね」

凛とした声が、すぐ傍から響いた。

「えっ、与謝野さん!?」

驚いて振り向いた先にいたのは、白衣の裾を揺らしながら椅子に腰かける与謝野晶子だった。
腕を組み、壁にもたれた姿勢はいつも通りだが、その目はどこか険しい。

「目が覚めて悪いが、状況が状況だ。探偵社の現状を教える」

与謝野は立ち上がりながら、無駄のない動きで資料の束を手に取る。
その手つきに、重さと緊迫感がにじむ。
香織は寝台の上で身を起こし、少しぼんやりとしながらも真剣に耳を傾けた。

「……まず、私達は突入の後、白頭巾の奴らに『成り変わった』」

与謝野は手元の紙を一瞥し、香織の目を見据える。

「天人五衰が『本』に書き込みをした。まるで探偵社を犯罪者のように……」

香織の顔がこわばり、唇がわずかに震えた。

「でも、あの『本』って……現実を改変できるものじゃ……」

「書き込まれたとしても、『本』に切り取られた頁は一枚−−−つまり表と裏の二回まで現実改変ができる。そのうち一回は、探偵社を犯罪者に仕立てた時に使われた」

与謝野は、香織の前にその紙片の写しらしき資料を広げる。

「残る一回はまだ使われていない。そして今、その頁を持っているのが……社長の親友であり、『天人五衰』のボス−−−福地桜痴だ」

彼女の声が低くなる。
語るたびに、張り詰めた空気が部屋に充満していく。
香織は目を見開いた。
その名に、胸の奥が強く締めつけられるような感覚を覚える。

「……じゃあ……太宰君は?」

香織は絞り出すように問いかける。
彼女の手がシーツをぎゅっと握る。

「彼奴は『猟犬』に捕まって、今はムルソーだ」

与謝野の言葉には感情がほとんどなかった。
だが、その静けさがかえって深い怒りと焦燥を感じさせる。
香織は言葉を失ったまま、俯く。
影がその瞳に落ちる。

「……ムルソー……あの場所に……」

微かに震える声。
彼女の視線は、何処か遥か遠くの闇を見ているようだった。






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