【第一章】世界の支配者篇 〜定められしサークリファイス〜
第18章 魔人の策略
「大切な人を傷つけられて怒らずにいられるわけがないでしょ!」
「それもありますがそれ以上にあなたは『何も出来ない自分』に腹が立っているのではありませんか?夢で予知しているのにも関わらず」
「そんなこと!」
(無いわけではない)
フョードルの言う通りかもしれない。
言い返せないことに香織は悔しかった。
(それに、何でこの人は夢で予知したって分かるの?)
黙り込んでいる香織の横を通ってフョードルは立ち去ろうとする。
「待って下さい!」
香織はフョードルの腕を掴むとまた映像が脳に流れて来る。
(これは‥‥何?)
流れてきた映像に映っているのはもうこの世には居ない母とその隣にフョードルがいた。
フョードルは深刻そうな顔をして座っている母の手を握って何かを話している様子だった。
「何で、お母さんが?あなたとお母さんは一体−−」
「ああ、見えたのですね。やはり覚醒が近付いてきてるようです」
フョードルは香織の頬に自身の手を添える。
「こうして近くで見るとリーリャに似ていますね」
フョードルが愛おしそうに香織の瞳を覗き込んでいると何処からか国木田の声が聞こえてくる。
「どこだ!?如月!」
「お迎えが来たようです。では、僕はこれで」
去ろうとするフョードルに香織は彼の服を掴もうと手を伸ばす。
しかし、急に意識が朦朧とする。
遠ざかって行くフョードルの背中に香織は手を伸ばす。
(い、意識が‥‥)
香織は崩れ落ちるようにして倒れてしまった。