【第一章】世界の支配者篇 〜定められしサークリファイス〜
第18章 魔人の策略
「唯斗!」
香織は走りながら叫びに近い声で唯斗を呼び出す。
「な~に?」
香織の影から唯斗が姿を表して、香織の隣でゆらゆらと浮かぶ。
「太宰君がフェージャと会っているかもしれない!私が気をそらしているうちに太宰君を連れ出して!」
「マスターのお望み通りに」
スッと唯斗の姿が消える。
(あの建物の裏路地に太宰君が!)
香織は物陰に隠れながら太宰の姿を探す。
◆ ◆ ◆
人気のない裏路地では森を刺したフョードルが現れ、彼は警察の服から私服に着た。
「………?帽子は……」
置いてあった場所に帽子がないのを見たフョードルは独り言を呟く。
「捜し物はこれかい?」
帽子を被った太宰が手を振る。
「……貴方ですか」
「仮面の男すら囮にした二重暗殺。君ならその位はするだろうと思ったよ。だから逃亡経路を読み、待ち伏せて貰った。似合う?」
「全く」
「なら返すよ」
フョードルの帽子を太宰は投げて返す。
「『魔人』フョードル・ドストエフスキー……君らしい遣り口だ。哀れな神父殿の頭を弄って暗殺者に仕立て上げ二重組織の長を襲わせるとは」
「それでご用件は?」
「社長に盛った毒の正体を教えて貰おうか、君の目的は判っている。『本』を得る為には横浜の異能者を根絶やしにする必要がある。けど君達『鼠』には組合のように街ごと焼き払う兵力がない。だから暗殺で探偵社とマフィアの頭を落とそうとした」