第56章 菩薩との契約
「……なに考えてやがる」
「…クッ…」
「何がおかしい」
「なにもおかしくはないさ。ただ…」
「…言えよ」
「…詰めが甘いんだ、よ!」
ドっと思いきり腹部に入ると三蔵は床に座り込んだ。
「さ…ッ……・・」
言い淀み、雅はあえて、近付かなかった。
「おい、雅?それでもいいのかよ!」
「……ッッ…」
「なんとか…言ってください!」
「……」
「雅!!!」
三人の声が部屋に響く。しかし雅はペコリと頭をこれでもない位深く下げていた。ゆっくりと頭をあげると、くるりと体の向きを変えたのだった。背中を向ける雅に誰一人声をかけることは出来なかった。
「……おい」
「……ッッ…」
「こっち向け」
「…嫌だ」
「うるせえよ。こっち向けって言ってんだろうが」
そっと肩に手を置く三蔵の腕をパシッと振り払う雅。
「おい、マジかよ……」
「雅……」
「…チッ…」
そのまま、雅の前には菩薩がいる。背中にいる四人に振り向くこともなく雅は話し始めた。
「何言ってるのよ…」
「…ぁん?」
「私、本当はずっと嫌だった…いつ死ぬかも解らないで…危険な旅だし……西に向かうのだって……私には全く関係のないことだし……」
「何言ってやがる…」
「……雅…?」
言い出した雅の口から紡がれる言葉は今までの雅からは思いもよらない言葉ばかりだった。